状況は予断を許さず不謹慎であることは承知の上で…。

台風被害が甚大であった岩手県岩泉町。この地の名所が龍泉洞。日本三大鍾乳洞のひとつで私も美しい地底湖を見たくて訪ねたことがある。

由来は、宇霊羅山から「ウ〜ウ〜」といううなり声にも似た声が続き、村人たちが不審がっていると龍が洞窟から飛び出てきて、空の彼方に去っていったという。その洞窟からは渾々と美味しい水が湧き出て人々はその恵みに感謝したという。

この由来はおそらくダブルミーニングだろう。

龍は水の化身。水のあらゆる形象を示す。空から見ればわかるように山間谷間をぬって流れる様はまさに龍の姿。「ウ〜ウ〜」という音はまさに河の氾濫を暗示する。

宇霊羅(ウレイラ)という聞き慣れない語感もアイヌ語が語源という。靄、霧がかかる山という意味だそうだ。これもまた得体の知れなさ、そして水を暗示する。この地が古くから水の恵みを得る一方、悩みもまた多かったことが推察される。

宗像伝奇教授風に言えば、言い伝えや伝承、昔話は人々の恐ろしい体験をデフォルメした形で残る。長い時間を経てそれが忘れられてしまい、耳障りのよい、あるいは都合のよい部分だけが伝わってしまうこともある。

伝承をバカにしてはいけない。伝承は先人の経験値をいまに伝える大切な資産なのだ。

歴史学者磯田道史氏が提唱する災害考古学に、地名考の項目があるが、先に注目された広島の「蛇落地悪谷」、南三陸の「塩入」ではないが、つくづく自然と人間の関わりは人間の一、二世代の時間軸で判断してはならないと思う。

後知恵の誹りもあるだろうけれど、末筆ながら、被害に遭われたすべての皆さまにおくやみ申し上げます。