昨日の講演続きで。
商業界倉本初夫主幹との思い出。

私が在籍した頃は、雲の上のような存在で仕事始めに社員全員でお話を聞く程度の関わりでしたが、それでも何回か雑誌に寄稿いただく際にお話をする機会がありました。なかでも「安売り論」に関しては私の礎です。

「『安』は安っぽい、安かろう悪かろうというイメージを強調する人も多いけど、安全、安心、安寧の『安』でもあるんだよ。うちは安売りですが、安心してお買い物をしていただけるという意味での安売りでございます。もちろん価格も精一杯勉強させていただいております、むかしはこういう口上を述べたもんだよ」

私は当時チェーンストア経営雑誌の責任者でしたから、時折巻き起こる安売り悪人論に対抗する特集も組みました。物理的には渥美先生、そしてその思想的バックボーンは江戸期の本商人道に。初夫主幹は長治主幹同様、石門心学をはじめとする商人道研究の泰斗でしたから、そのひとつひとつの指摘が大変勉強になりました。

そのお店の安売りはお客様にどう捉えられているのか。それがブランドだと。

また主幹は白川漢字学を引き合いに、

「『安』は家の中で女性が横たわる姿。祖霊と一体になることで安泰となる」

私も白川静博士を読みかじっていましたから、大に合点したものです。

そして商道は真理であり、本商人はときの政局に迎合してはならぬとも。だから太宰春台などは石門心学を敵視しました。為政者の経済政策に合わない。商人は顧客の幸せを考え、為政者はいかに統制するかを考えるからです。

いまもこの精神は私の中にいきづいています。