20年以上、ワールドカップをウォッチしてきた人間からすると、
ラグビーワールドカップがここにきて注目を浴びるのは嬉しいことです。
サモア戦も素晴らしい戦いでした。
とにかく緒戦の球出しがはやく、サモアを疲れさせる、ミスを誘う、相手の得意な形にさせない・・など意図がよく見えました。
スコットランドがスプリングボクを破ってくれることを期待しましたが、さすがにトップ国はそう簡単に崩れませんね。
それでもアメリカ戦は期待しています。勝って、天命をまちたいですね!
さて、ラグビーとビジネスを結びつける論考もあまた出てきている昨今ですが、
ラグビーをやっている方って、それこそ宿沢さん(エディジャパン前の唯一のW杯1勝時の監督)の時代から金融エリートの方がけっこう多いですね。
かつての金融マンは世界を見る機会が多いのか、宿沢さんの本を読むと
「日本は強豪国がテストマッチをしなければならないと思わせるだけのジャパンオリジナルを開発し、世界に認めさせなければならない」
と、はやくから世界への視座を提供されていました。
それが20年以上の時を経て、現実化しつつあります。
さて、私がラグビーとビジネスの相関を語るなどおこがましいのですが、
あえて、今回の結果から見えたことをアトランダムですがまとめてみました。
1)既存の問題解決のフレームワークをはずす
ビジネスに限らず、問題解決のためには理論やフレームワーク、あるいは定石というものが存在します。もちろんそれらを学ぶことは大切ですが、あえて既存のフレームワークをはずす。日本に長くはびこった大学を中心とするローカルラグビー界のマネジメント論、人材育成論のある種の否定が今回のチームビルディングには重要だったと思います。
2)多文化の中で他者と議論し、意見交換しながら新しい価値を生み出す
外国人選手が多いだのなんだのと言われることもあるようですが、世界レベルのマネジメントとテクニカルコーチを組み合わせれば、即結果が出るほど甘くないのが勝負の世界です。そもそも第一級のコーチ陣を組閣するためにはそれなりの人脈が必要です。トップリーグに世界レベルの人材が参加することはあっても日本のこれまでのワールドカップでの戦績は散々でした。その意味で今回の4年間のチームビルディングの筋書きを描いた人は、すごい人だと思います。
いまのジャパンの構成をみると、まさにローカルカンパニーからグローバルカンパニーへの脱皮をみる感じがします。
大事なことは多文化の中でコミュニケーションをとり、課題解決していくこと。
浅はかなナショナリストは外国勢力、とくにアジア方面を嫌いますが、これからの日本は、多文化の組織の中でいかに結果を出していくかということにどんどんチャレンジする必要があります。逆に、「Via Japan」でよりプロセスが磨かれる、結果が出るというサイクルをつくれば世界から人材が集まります。
先だって、世界の大学ランキングが発表され、東大と京大が凋落してしまいましたが、知り合いの東大教授が「形だけのグローバル化」を嘆いていました。英語で授業をやっているから、外国人教員数、留学生を増やしたからグローバルになるわけではありません。
3)目的を達成するために、自ら厳しいフィジカルおよびメンタルタフネスを課す
「努力は裏切らない」「世界一の練習量」という言葉がマスコミに踊っていますが、世界の強国がさぼっているわけではありませんし、たしかに凡人は人の10倍努力せよとはいかにも日本的ですが、「世界一」を安易につかうことは「井の中の蛙」で私は好きではありません。
量が質に転換するためには方法論を持たなくてはなりません。目的とプロセス管理の同期化、数値化、再現力にこそ真に見るべきものがあるように思います。強国もまた日々技術進化を遂げています。それを上回るためには、当然フィジカルの強化は不可欠ですが、データ解析能力の進化も同時に問われます。
たとえば、一人に2人がかりでタックルにいき相手をとめると簡単に言いますが、どの角度からどのように進入すれば、ボールがどこから出てくるか瞬時に判断する必要があります。データ解析能力が高まれば、それを実現するためにどれだけのフィジカルが必要になるかがわかります。だから厳しい練習に耐えられる。
日本人はもともと局地的なテクニカルはグローバルレベルです。
ちょっとたとえがとびますが、真珠湾攻撃の特攻隊長の淵田美津雄氏の自伝によれば、真珠湾の浅い海底に魚雷を打ち込み、艦下弦部に命中させるために、敵の艦砲射撃を想定しつつ、飛行機の進入角度、発射角などあらゆる天候条件を考慮して、鹿児島のシミュレーション場で訓練しました。それこそ「月月火水木金金」と言われた地獄の訓練の賜物です。目的も明確でした。こういうところは日本人のすごみがあるように思います。
ただ、日本にはよく言われるように、戦術はあっても戦略が乏しかった。
米国の太平洋方面軍司令官ニミッツ提督は、自伝の中で、真珠湾は、結果的に、アメリカのばらばらだった戦略と戦争に対する人々の思いを統合する上で、重要な起点となった。もし日本が奇襲をかけず、太平洋の重要拠点の要塞化に徹していたら、米国は数倍の犠牲を払ったはずである・・という見方をしています。奇襲成功は長い目で見ると反攻の起点になる・・その戦略が「厚い碁」と評されたニミッツ提督らしい言です。
4)真のエリートとは社会をよりよいものに変革していくために自己犠牲を厭わない
ラグビーはエリートのスポーツと言われています。元々は植民地マネジメントのノウハウをスポーツという形に落とし込んだとも揶揄されますが、大事なことはエリートが改革の先頭に立つことを許されるのは、厳しい現実がもたらす「負」を受け入れながらも、理想を忘れず、変革がもたらす「正」の果実を社会に還元するために自己犠牲を厭わない高邁な精神があるからです。
いまの日本の政治屋を見るにつけ、ほんと対極ですね・・。
さてさて、ホスト国イングランドがワラビーズに敗れました。
かつて北半球で唯一のエリスカップ国であったイングランド、その力はサッカーのように「クラブ文化」によるジュニア育成によって築かれたと言われてきました。当時はオールブラックスに代表されるような州代表選抜方式が古臭いという論議も起こりました。
日本の2019年をにらんで、ジュニア育成から変革がはじまっているといわれています。
そう考えると、まさにワールドカップは国の叡智を結集した総力戦。
今回のワールドカップを機に、またいろんな立場の方からの論考が増えるでしょう。
楽しみですね。