エクスママーケティングの藤村先生のブログに触発されて書いてみます。
私は先生にお会いしたことはありませんが、私の周囲に信奉者も多く、ご著書も拝読し、ひそかにリスペクトしている先生です。
先生は「安売りは悪である」という主張をされています。もちろんこれはエクスキューズもあって、「無理な安売り」「計画性のない安売り」「周囲を考えない安売り」「思いのない安売り」は悪というようにおっしゃっています。
まったく同感です。
私もブログで、
「取引先あるいは従業員にコストを押し付ける」
「不正、あるいは人体、環境に害をなす要素をとりこんで原価を下げる」
ことによって作り出される「安さ」は悪であると主張しています。
ですが、一方で、先に先生の挙げた要素の逆を実行することで作り出された「安さ」はどうでしょう。
「無理のない安売り」
「計画性をもった安売り」
「周囲を考える安売り」
「思いのある安売り」
「無理のない」とは、たとえば、従業員が疲弊しない、財務上無理のない範囲で投資する。そのためには適正利益を上げ続けられるだけのフォーマット開発、商品、サービス開発、経営管理能力の絶えざる向上が不可欠でしょう。
「計画性をもった」とは、長期に無理のない発展を遂げる工夫を講じることです。チェーンオペレーション(多店舗展開)では、サプライチェーンの整備から、在庫発注のマネジメント力まで規模に応じたステップアップが必要です。もちろんこれには設備だけではなく人材教育への投資も大切です。
「周囲を考える」とは、取引先との良好な関係、信頼づくりこそが継続的なビジネスを生みます。小売業がオペレーターとして優れた構造、効率化をはかることができれば、取引先もウィンウィンになります。取引先、スタッフに在庫やサービス残業を押し付けたりかぶせたりする行為がいまだにはびこるのは、小売業にそれを解消する「術」(学習機会)がないからです。
「思いのある」とは、顧客の家計負担を少なくするということです。収入がなかなか上がらない時代にあって、生活消費財を安く手に入れることができれば家計にとって有難いはずです。家計の節約はその家庭のほかの支出、投資の原資になります。
こうみるとまさに近江商人の「三方よし」に通じます。
「無理のない」「計画性を持つ」は企業の構造的な努力を指し、「周囲を考える」とは従業員、取引先満足の実現、そして「思いのある」とは顧客の生活への貢献のことです。
石田梅岩も『都鄙問答』の中で、「商人は算術の巧みさをもって、お客様のお金を倹約することが大切」と説きます。
お客様のつかうお金を倹約するためには、自分の利益(経費)を削ることで達成する必要があり、そのためには不正や取引先への無理強いではなく、商人であるならば自らの費用の計算能力を高めることで実現せよという主旨です。
もうひとつ忘れてはいけないのは、
チェーンオペレーションでいえば、多店舗展開することで多くの従業員家族が生活の糧を得ることができ、もちろん多くのお客様の家計に貢献することができるのではないかということです。
そう考えると、「安売り」は正義とまでは断言できませんが、
「安売り」によって実現できる「理想形」はあるのではないか・・と私は考えます。
「安売り」の「安」は、白川静博士によれば、
「家のなかで女性が横たわり祖先の霊と交感し、その家の永い安寧と発展を祈念している姿」を象ったものだそうです。
低価格ではなく、気軽に買える値段、安心して買える価格と品質の実現。
「安い」は「安かろう悪かろう」「安っぽい」のイメージもありますが、「気安さ」「「心安さ」「安心」の意味も持ちます。
一方を強調することは、たしかにコントラストの原理上、ビジネスでは大切ですが、
トヨタの真髄は、ハチロクにもあるし、やはりカローラにも宿っていると思うのです。