「ピンチはチャンス」
「逆流を泳げ」
「裏道に花あり」
「逆張り」
これらの慣用句を「主」に据えると見えないものが見えてくる。
いまドラッグストア業界では、OTC(一般医薬品)販売のネット解禁について賛否両論が渦巻いている。
月刊MDも、異業態やネットの参入があれば、経営的視点から、OTCの売上、利益を補てんするマージンミックスの方法論について繰り返し提示している。
しかしながら、OTCはほんとうにドラッグストアの「核」ではなくなっていくのか・・
こうした疑問も当然生じる。
皆が参入したときに、ドラッグストアだからできることを全面的になぜアピールできないのか。
なぜ他チャネルに流れるのか。
他チャネルと差別化し、新たな優位性を創り出すことも可能なのではないか。
これが現在作成中の月刊MD1月号特集の出発点である。
実はOTC販売のネット解禁はドラッグストアにとっては「チャンス」なのである。
もちろん条件付ではあるし、チャンスに変えられるところは限られるが・・。
OTC販売がネットやコンビニにとられると「カッカ」している皆さんは、実は多くがOTC販売を「ラクして粗利の稼げる商材。だから価格競争は困る」という考えしか持ち合わせていない。でもそうストレートに指摘されたら困るので、「安全安心の担保」を大義名分としてかざす。
では、安全安心の担保を大上段に構えるほど、OTC販売に対する知見を「店頭」で蓄え、お客様をフォローアップしているのだろうか?
たとえば、化粧品販売は店舗別の顧客台帳があり、ロイヤルティの高いお客様に対しては、常にスタッフからのフォローがはいる。
「前回お買い上げいただいた、○○(商品名)はいかがでしょうか?○○さまのお肌は敏感ですので、こちらの商品をおススメさせていただきましたが、気になることがでてきましたら、いつでもお問い合わせください」
という手書きのお手紙を、すぐれたリレーションシップを発揮している店舗ではどんどん送っている。
だから店頭ではそのお客様がいらっしゃったときはお客様を名前で呼ぶのは当然だし、お客様もスタッフを親愛の情をこめて名前で呼ぶ。
ところが風邪薬を買った人に、目薬、胃薬を買った人に、「その後いかがですか?」というコミュニケーションはほとんど成立していない。
薬事法も「購入の際の副作用などの説明」のみを義務化しているだけであり、その後どうなったのかというフォローアップについては、ほとんど関心をはらっていない。
だからお客様は、OTCに関してドラッグストアやスタッフ(薬剤師、登録販売者)のソリューション能力を信頼して買うのではなく、テレビで大いに宣伝している商品や店頭陳列量の多い、あるいは一番安い商品を買うのである。
店舗が、スタッフが、「このお店(人)に相談しよう」という気持ちをお客様側に醸成していない。化粧品の力を入れ方とはまったく真逆である。言葉は悪いが「売りっぱなし」なのである。
本来は、OTCは販売前と販売後という2つの顧客接点の中で蓄積されるノウハウを企業は積み上げなければならない。
「こういう頭の痛み方をしている人には、こういう系統の成分がはいった商品で大丈夫、こういう風に変化すれば医者にいくようにすすめる」
かつて薬局には各製薬メーカーの商品知識レクチャーが及びもつかないほどの広範かつ歴史的な知識を備え、お客様の症候状態を見抜く実践を積み上げた薬剤師がいたという。
製造業の世界では、世界と伍する技術を備えた町工場の熟練職人のノウハウ伝承をデータベース化する取組が行われている。
名古屋市立大学の鈴木匡先生の言葉を借りれば、
「カメラだって、オリンパスとニコンとソニー、パナソニックのシャッター技術の違いを説明でき、それが価格差になっていることをきちんと教えてくれる熟練販売員さんがいる店舗なら、買うでしょう。それでもさんざん説明を聞いたうえでネットで購入するご時世です。それはそれだけのロイヤルティしかないということです。OTCだってさんざん薬剤師から説明を受けた後で、ネットで購入されるかもしれない。それは仕方がないけど、その前に説明は尽くしたのか、フォローアップをしたのか。ここまでやってネットにやはり奪われちゃうのか。突き詰める前にチャネルの議論をしても意味がない」
OTCは「セルフメディケーション」の第一歩であるというかつての改正薬事法の精神はどこに行ったのか。
OTC販売のKPI(重点経営指標)をどうコンセプトリメイキングするのか。
相談接客にかかわる接点、時間をどうオペレーションの中で作り出していくのか。
それらを突き詰めていく努力が、価格以外の「価値」を生み出す。
もちろん、そういう土壌があるところは限られる。
だから、いまOTC販売は「チャンス」なのだ。