湖南平和堂の二号店東塘店を預かる近藤店長は、難しいと言われる現地マネジメントにおいて高い組織能力開発に長けた方です。
現在同店の副店長を務める黄金玉(女性)さんは中国人スタッフのトップですが、お二人の連係プレーが、同店の高い売上、利益率水準の源泉となっています。
ちなみに、湖南平和堂さんの営業利益率は、おなじく中国に進出しているセブン&アイさん、イオンさんに比べて実に2倍以上になっています。
(*法政大学矢作敏行先生調査:2010年 平和堂7.3%、セブン2.2%、イオン2.9%。セブン、イオンさんは北京、天津、青島、成都)など大都市出店で高い不動産、人件費コストということでしょう。内陸都市はまだこれら大都市と比較すれば低コストで運営できているようです)
といっても、最初から近藤店長もこのようなマネジメント能力に長けていたわけではありません。
近藤店長は、店長職としては実はこの店舗が最初でした。
最初はいろんな衝突もあったそうです。いまも試行錯誤の繰り返しだそうです。日本においてでさえ店長職は難しいもの。ましてや文化の異なる社会でのマネジメントは実に大変なものであったと拝察されます。
以前、月刊MDにて湖南平和堂さんを取材した折、近藤店長の奮闘ぶりをレポートしておりますが、この写真は、スタッフルームに掲げてあるものです。
これは、利益という果実(りんご)を大きく、美味しくするためには、根をはり葉を茂らせることがなによりも大切であることを図解しています。
たとえば挨拶ひとつとっても、また通路のごみを拾うことも、小さなことのように見えて、実は根をはることや葉を茂らせることにつながっているのだということです。
日本では当然のことと思われますが、中国は長らく「売り手市場」だったために、「売り手」が消費者に気持ち良く買物をしてもらうという発想がありませんでした。
ですが、現在は、「買い手市場」に移行しています。そして、いまは店を出せば、商品を置けば、ネットショップをやればだまっていても売れる時代も過ぎ去ろうとしています。
月刊MDのキャッチフレーズではありませんが、「売り方」が問われる時代に突入しつつあります。
その意味では、人海戦術ではなく経営戦略が問われる中で、「人材教育」「組織開発」は何よりも重要な問題です。
近藤店長は、それを見据えています。
利益はなんのためにあるのか。
商人が利益をいただくのはなぜか。
ここに明確な解を与えたのが、江戸期の石門心学開祖石田梅岩です。
江戸期商人は厳しい身分制度の中で、下位に位置づけられました。
商人は利益亡者のレッテルを貼られることもしばしば。
「武士は義で動き、商人は利で動く」これは現在でも「商人」を揶揄するときにつかいます。
そうではなく利益は商人にとって正当なものであるということをわかりやすい問答で体系化したのが石田梅岩です。
*ぜひ石田梅岩の著書『都鄙問答』をお読みください。私にとってもバイブルのひとつです。
ちょっと意訳ですが、
利益は、お客様の買物の満足を援ける商人の次の仕入れ、才覚を磨くために不可欠なもの。
利益は花における実である。
実があればこそ、次なる根、葉をつくり花を咲かせる土壌の養分になる。
花はお客様の満足な買物。
お客様に満足の花を咲かせるため、商人は正当な利益を堂々といただくのだと。
ちなみにこの石門心学を戦後の近代的商人の精神的バックボーンとして再評価し、現代的解釈によって全国の志高き商人に慕われたのが、近代商業の父と言われた倉本長治氏です。
湖南平和堂さんのスタッフルームで見つけたこの図は、まさに商人としての基本的精神が見事に示されています。
商売をするために、自分たちがなにを一番大事にするのか。それを言葉だけではなくわかりやすい形で示すことはとても大切だと思います。これは世界どこでも同じでしょう。
この図、じつは近藤店長がオリジナルでつくらせたものだそうで、それをうかがってあらためてすぐれた商人のDNAを持った方だと感じ入った次第です。