ドラッグストアにはいろんな経営指標がありますが、


月刊MDで重視している指標に、


1)在庫日数


2)販売キャッシュフロー


3)損益分岐点売上高比率


の3つがあります。


これは物販では常識ですが、わかりやすくいいますと、


1)の在庫日数は、どれだけの日数で商品が現金化されるかというもので、

ドラッグストアの場合は、医薬品、化粧品という商品回転率が低い商品が中心ですから、

だいたい平均40―60日になります。食品スーパー業態やコンビニからすれば、とんでもなく長いように思われるかもですね。


2)販売キャッシュフローは、「買掛金回転数」(平均支払いサイト」と「商品在庫日数」の差額で表します。

単位は「日」です。これがプラスであれば、商品売買によるキャッシュフローが出ていることになります。

マイナスだと、取引先に商品代金を支払ったあとも在庫が現金化されないで残っていることを示します。


プラスではなくてはいけないということではありませんが、プラスの会社は手持ち現金が潤沢だということが言えます。


3)は、損益分岐点売上高(損も得もない収支トントン)が現状の売上高に占める割合です。70-80%台が数値の目安です。損益分岐点売上高80%ということは、現状の売上が仮に20%下がっても赤字にはならないという意味です。



1)の在庫日数が短い企業のトップ3は、


カワチ薬品(34.8日)、コスモス薬品(37.3日)、クリエイトSD(45.2日)さんです。


食品売上構成比が高い企業がやはり商品在庫日数がぐんと減ります。


2)の販売キャッシュフローが潤沢な会社のトップ3も、


コスモス薬品(34.2日)、カワチ薬品(27.6日)、クリエイトSD(13.5日)となります。


ちなみにヘルス&ビューティ(HBC)重視型の企業は、


マツキヨ(-12.9日)、スギ(-11.0日)、ココカラファイン(-12.6日)と軒並みマイナスです。


ですが、これはあえて在庫を抱えて売るという戦略ともいえますし(返品をしないという条件にかぎり)、マイナスであることがけっして悪いわけではありませんが、やはり、食品強化型の店舗は販売キャッシュフローが潤沢と言えます。


3)を、この3社でいいますと、


カワチ薬品(84.0%)、コスモス薬品(77.9%)、クリエイトSD(79.7%)となっています。


ちなみにもっとも低いのはサンドラッグさんで、76.5%です。


カワチさんがちょっと高いですね。


食品はどうしても商品回転率が高くなってしまうため、作業負担=人件費(販売管理費)が高くなってしまいます。


その中で、この3社は、販売管理費率が


カワチ薬品(17.9%)、コスモス薬品(15.0%)、クリエイトSD(21.4%)になっています。


これらの企業はやはりコストコントロールができている企業だと言えるでしょう。


コストコントロールをおこなって販売キャッシュフローを増やし、結果として営業利益額を増やすということは、あすの投資の原資となります。


小売業は本来、商品利益によるキャッシュの積み重ねがベースになります。


ここに不動産収入や金融収入などが入り、不動産の含み益頼みの経営になってしまうと、かつてダイエーやマイカル、西友が陥ったように不動産下落、金融縮小(バブル崩壊)による膨大な有利子負債がのしかかってきます。


逆にウォルマートやテスコといった企業は、商品利益にくわえて中間流通の内製化による中間流通の合理化によって得られる利益があります。だから日本のチェーン企業よりも高い利益率を維持しているのです。


では小売のちいさく貴重な商品利益をどこに向けるのか。


小売業でいえば、店舗設備投資、人事教育、人材開発が重要です。


ちなみに、2012年の店舗設備投資で1000億円以上かけるのはサンドラッグさんとコスモス薬品さんくらいしかありません。


メーカーさんには研究開発費という勘定科目があります。これはメーカーさんのあすの差別化のための先行投資ともいうべき象徴ですが、


この厳しい時代にあって、どれだけこの研究開発費にお金をかけられるか。それがメーカーさんの実力を読むひとつの指標になります。就職活動中の学生さんはメーカーさんの場合、かならずチェックしていましたよね。


店舗は、小売業にとってあすの利益をうむプロフィットセンターですから、メーカーさんの研究開発費と考えてよいかもしれません。


利益をうみだす社員、スタッフの皆さんが働く場と待遇にもしっかりお金をかける。*店舗設備投資をたんなる新規出店数増という形だけだと意味がありません。


そして一人当たりの報酬を増やし(パート・アルバイトさんも)、しっかり買物をしてもらって日本の個人消費を増やす。


そういう好サイクルが生まれてくれば、いいなあと願うばかりです。


もっともこわいのは、安易なデフレ批判、ディスカウントとコストダウン批判に走り、現場のやる気を引き出すという美名のもとに人海戦術に終始し、結果一人当たりの報酬がまったくかわらないまま消耗品のごとく人を使い倒すという考えです。


個人のやる気に甘えるということです。現場をまわっていますとこういう例が少なからずあります。そういう企業は、どんなに利益が出ていても、見た目の売上があがっていても、離職率が高い。


恐ろしいことに、日本の平均世帯収入はずっと下がり続けています。


厚労省の国民生活基礎調査2009年によれば、


1994年の平均世帯収入664万円がピークで、

2010年は、530万円になっています。(4800万世帯平均 世帯2.6人)


世帯所得構成比も、同調査でこのように出ています。


200万円未満 19%(910万世帯)

200-400万円 27%(1300万世帯)

400-600万円 19%(910万世帯)

600-800万円 13%(620万世帯)

800-1100万円 12%(580万世帯)

1100万円以上 10%(480万世帯)


とボリュームゾーンは、600万円以下になっています。

これが現実です。


そして近い将来、これがより2分化していく傾向にあると言われています。

こういう状況下に、増税と社会保障費のアップが論議されています。


もちろん、1100万円以上のゾーンに向けた商売もあるでしょう。

これも日本は一定のボリュームはあるわけで、それはそれで重要なビジネスだと思います。


ただ小売業は金融のようにレバレッジのきくビジネスではありません。メーカーのように合理化による利益最大化の恩恵をすぐに得られるビジネスでもありません。


やはり小売業が自らの智恵と工夫、コストダウンによってつつましくもちいさな商品利益を積み上げ、雇用をふやす、あるいは一人当たりの給料をふやす・・こういう努力を行う限り、月刊MDはそこに最大の敬意を払いつつ、その努力の内容を広く伝えたいと思うのです。