きのうの続きです。
外資系小売業が日本に進出して、もっとも成功した例は、マクドナルドでしょう。
創業者の藤田田さんという人は、ソフトバンクの孫さんも畏敬してやまない本物のカリスマでしたが、
その藤田さんの東大学生運動時代の仲間のひとりが、渥美先生です。
マクドナルドの創業期には渥美先生も関わりました。
このエピソードは実に面白いです。
渥美先生は、藤田さんに、
「とにかくそのままを持ってこなくてはだめだ」ということを言い続けていたんですね。
それで藤田さんもその通りに実行しました。
看板から店舗スタイル、スタッフマニュアル・・、1号店の銀座店成功は伝説ですよね。
当時の日本人がハンバーガーなんて食べないよ・・という予測を覆したわけです。
アメリカのマクドナルドをそのまま・・、
ただひとつだけ、その通りに持ってこようとすると、変えなければならないことが生じたのです。
それが、ハンバーグ(パテ)を焼く熱源の温度設定です。
日本とアメリカでは、当時ガスの熱量が違いました。
アメリカは、一定にどの場所でも5000キロカロリー出るので、マクドナルドはそれを前提にマニュアルをつくっています。
ところが日本は、2000-4000キロカロリーでしかも時間帯によって変わるという状態でした。
そこでアメリカで使われているパテを焼くのに必要な温度を確保するために膨大な実験を重ねたのです。
まず、アメリカのマクドナルドが使っているガスバーナーよりも空気の取り入れ口が大きいガスバーナーの開発を考えました。
酸素の供給量を増やして熱効率を高めようと言うことです。
それで、ガスバーナーの空気の取り入れ口の大きさを100通り以上考えて実験しました。
次に、パテを焼く鉄板自体の熱効率を高めるために、鉄板(合金)の金属の種類や混合比率を変えて、これもまた100通り以上の実験になりました。
ガスバーナーと鉄板を開発して、ようやく5000キロカロリーを一定に確保できるようになったのですが、
もっと困ったことが起こりました。
それは、日本の牛肉がとても高いことです。当時は米国産の8倍です。
日本ではコストを考えてスジ肉中心にしました。ところが今度は牛肉にアロマもフレーバーもなくなることがわかりました。
そこで牛肉の香りを高めるために和牛の脂を入れたのですが、今度は脂肪の含有率がアメリカの基準より高くなってしまうので、当然のアメリカのマニュアル通りの温度と時間で焼くと、焦げ付くのです。
そこで今度は、焼く温度と時間の実験を繰り返しました。
そこで、得られた、日本マクドナルドの、鉄板の温度・・
「385℃」
だそうです。この結論に導くまでに10カ月かかりました。
注意:当時の話です。現在と事情が異なっていると思いますのでご了承ください。
こういう話をきくとノウハウというのはそう簡単に盗めるものではないことがよくわかります。
一見なんの工夫もないようなところにこそ最大のノウハウがつまっています。
マクドナルドの成功も、
アメリカの味をそのまま出すということにこだわったところにあります。
そのまま出すための条件克服と工夫にかけては日本人はおそらく世界でもトップクラスでしょう。
優れた職人は、自分の使う道具を独自に工夫しますよね。
渥美先生は言います。
「商業の発展のためによいものを真似よとは倉本長治先生の言葉だが、真似るということ自体、実は大変な技術の集約である」
そのことに気付き、真似ることの深さを知っている人だけが、真似を超えて、自分のスタイルをつくっていけるのだと思います。
まさに、
「守・破・離」の世界ですね。