月刊MD編集長(2代目)のブログ


「戦艦武蔵」などで知られる記録文学の最高峰と言われる吉村昭さんが1970年に書いた作品。*原題は「海の壁」


明治29年、昭和8年、昭和35年(チリ沖地震)の3つの地震と津波の証言と記録を記したものです。


文庫化は、2004年のこと。東日本大震災の約1か月後に第9刷が行われていますから、急激に関心が高まったのでしょう。


この作品を読むと、誤解を恐れずいえば、「歴史は繰り返す」としか言いようがありません。


明治29年の津波は三陸地方で2万6千人以上の死者を出した甚大な災害でした。


吉村氏は、そのときの文献と古老の証言をたどって、前兆、経過、被害状況、エピソード、救援状況を描き出しました。


読めば読むほど、今回の東日本大震災とまったくおなじ地名もさることながら、まったく同じような経過が描写されていることに驚きを禁じえませんでした。


1970年の段階では、明治29年を経験した人が生きていました。


その一人の言葉を締めくくりにしてこの作品は終わっています。


「津波は時世がかわってもなくならない。必ず今後も襲ってくる。しかし今の人たちはいろんな方法で十分警戒しているから死ぬ人はめったにいないと思う」。


この言葉は、いまとなってははかない希望となってしまいました。


ですが、かれらが伝えた、記録と記憶の断片は、けっして無駄ではなかったと思います。


いま東日本大震災についても、原発の状況についても、刻々とさまざまな立場で記録がとられていると思います。


自衛隊の記録、医療機関の記録、もちろん流通もあるでしょう。


公的な報告書もあれば、民間組織、市井の一個人の聞き取りもあるでしょう。


それこそ家族の記録まで、人の数だけ記録があります。


わたしは、これらはすべて大切な記録だと思います。


先人たちが遺してくれた記録と記憶の断片をどう大切にしていくか。


この伝承方法はやはり重要です。


これは、ビジネスの世界にも通じますね。