ドラッグストアはコンビニに学ぶべき点がたくさんあります。
ひとつは、この間のブログで書いたように、TPOS開発能力の高さです。
コンビニという業態自体が「利便性」というTPOS開発でつくられたものです。
だから、とくに「利便性」という部分においては他の追随を許しません。
前回のブログで、「ロキソニンS」に代表されるように、「すぐ使う」という医薬品の存在があり、そしてそれは、ドラッグストアにおいて、販売数量、金額ともにA級であり、購買頻度の高い商品であることを指摘しました。
そこで、コンビニが、「すぐ使う」というTPOS軸で、医薬品、化粧品、日用品を揃えてコーナー展開すると脅威ではないかという趣旨を書いたのですが、
ほんとうのコンビニの脅威はそんなことではありません。
コンビニの最大の武器は、店舗数(1SKUあたりの販売数量)をベースとした製造小売能力の高さです。だからメーカーさんが合わせるのです。
仮に、「ロキソニンS」のように、
単価が安く、すぐ効く、解熱鎮痛剤を登録販売者が扱える第2類医薬品で、製造する仕様書発注ができる可能性があるということです。
もちろん、現状はすぐにそんなことはできません。
製薬メーカーは医薬品卸も含めて、コンビニ企業のもつ、厳しい在庫管理にはとても対応できません。コンビニの食品メーカーが参加する各種PB・SBは在庫切れを起こせば、厳しいペナルティがあります。
しかし、そのペナルティリスクを負ってでも、販売数量の絶対数がコンビニのチカラの源泉なわけです。
コンビニは欠品による機会損失をもっとも嫌います。
コンビニの欠品は、「人気商品なんだね、売り切れおめでとう!」の世界ではありません。完全に「悪」です。
実は、そう考えると、医薬品ほど、店頭できらしてしまうのが「悪」であるという代表的商品はないように思います。
調剤もそうです。処方箋医薬在庫を切らしてしまうほど、患者さんにとって不便なことはありません。いのちにも関わります。
その意味で、医薬品は処方薬も含めて「コンビニ流在庫管理」とマッチしているのです。
米国のチェーンストアは処方箋医薬品のジェネリック商品にターゲットを絞って、独自の仕様書発注を行っています。
米国には、チェーンストアPB用のジェネリック製造大手企業が複数あります。
コンビニは製造卸企業ですから、いわゆる「垂直統合」が得意です。
たとえばコンビニに消費期限の長いお弁当を並べるために、原材料元から押さえ、製造工程、物流、パッケージなどすべての工程を点検して実現します。そのための設備を製造している会社を自社に組み入れたりします。
日本のドラッグストア企業で、「垂直統合」、つまり製造元から物流までを一元化するようなM&Aを成功させている企業は皆無でしょう。
コンビニ流の「垂直統合」と「店舗展開」で、ジェネリック分野のシェア獲得に動く企業があれば、面白いのですが・・。
コンビニはこれらの意味で、米国流の店舗数、販売数量の多さ、つまりマス・マーチャンダイジングの効用をもっとも発揮できる最大勢力なのですが、弱点もあります。弱点でもあり強みでもあります。
それは、コンビニはフランチャイズシステムによって店舗数の多さが確保されているところです。
フランチャイズシステムとは、パッケージを提供する本部と、独立オーナーの対等な契約に基づいてビジネスが行われます。
このコンビニパッケージは、かつての酒屋やよろずやさんといった町の店舗を近代的な店舗に変身させ、80年代半ばから2000年代前半まで大いに成長しました。
それこそ、人をつかって4軒もコンビニを経営すれば、相当な資産が築けたのです。
ところが、2000年代半ばごろから、競争激化によるコンビニの既存店割れ現象が、常態化しました。
タスポ効果など様々な追い風も吹きましたが、日販はどんどん下がり、コンビニオーナーが働きづめでようやく生活が維持できるというレベルの店舗がたくさん出てきました。
それが記憶に新しい、お弁当消費期限問題にも表われました。本部が指定する消費期限による廃棄を無視してオーナーたちが値引きして売り始めたのです。これはすこしでもキャッシュを稼ぎたいオーナーたちの危機の裏返しでした。オーナーからすれば、本来店頭在庫はオーナーの資産なので値付けはオーナー裁量なのですが、契約問題も含めた課題も露呈しました。
*ここにはまたさまざまな問題があるので、ここでは深く取り上げません。オーナーさんに言い分もありますし、本部の言い分もあります。
先ほど、弱みでもあり強みでもあると言ったのは、オーナー意識が高いときは、自らのさまざま工夫で売り切る努力を行います。この努力の高いレベルがコンビニのチカラの源泉です。これが強み。弱点になるときは、オーナーの意識が下がり、仕入れた商品を右から左へ流すことが常態化し、「売上があがらない」と本部に文句しか言わなくなってしまうことです。
もうひとつオーナーたちの重荷になったのが、いわゆるパッケージ使用料、上納金です。日販が下がれば当然、オーナーの取り分は減ります。よって、本部は、消費期限の長いお弁当の開発、値入率の高いPB・SBの開発など、オーナーの取り分キャッシュが増えるような戦略を次々と打ち出しました。
よって、コンビニがたとえば、薬剤師や登録販売者を雇って、調剤やOTC医薬品を売っていくためには、オーナーがその負担をすべて担うということになります。
コンビニ各社は1万店舗を有する企業がありますが、どのチェーンも社員による直営(レギュラー店舗)は1割未満です。
つまり、そういう現実を考えれば、レギュラーチェーンで500-1000店舗有するドラッグストアも店舗数、販売数量という点ではコンビニとさほど変わらない前提条件になるのです。ただし注意すべきは1SKUあたりの販売数量ではコンビニに軍配があがります。TPOSによる絞り込みができているからです。
ドラッグストアは、調剤併設、薬剤師、登録販売者といったすべての条件を備えているわけですから、殊、OTCと調剤に関しては、コンビニよりも圧倒的に有利な位置にあることはたしかです。
よって、この間のブログタイトルの、ようやくの結論ですが、
ドラッグストアがコンビニに勝る価値・・それは、コンビニがOTC、調剤をすぐ取り入れることは難しいのですが、ドラッグストアがコンビニ流のTPOS開発を取り入れることは、完成された業態であるゆえに相対的に容易であるということです。*異論もあるでしょうが・・。
その意味では、サンドラッグさんとセブン&アイさんの動きは、要注目なのですが、これはまだ「水平統合」のレベルです。ただ、ドラッグストアにコンビニ流「垂直統合」を入れ込むという動きがあれば、面白いですが。
まあ、M&Aによる長期的視野に立った人的交流もありですが、規模が大きいと意外とスピードが落ちたりします。逆に小規模で、コンビニ流を身につけた参謀を取り入れて、オーナーが一気に小さくはじめるというのもいい方法のような気がしますが・・。小さくひな形をつくって横に広げる。これがチェーンの最大の武器です。
ここを意識して戦略、戦術を定めている企業と、そうでない企業では、この1-2年で、ずいぶん差がつくのではないでしょうか?