きのう、山本七平氏の「空気の研究」を取り上げました。




山本七平氏は論拠のある意見を封殺して、物事を進めていく「場」の雰囲気、状況を「空気」と表現しました。




もうひとつ、この「空気」を説明するアプローチがあります。




慶應義塾大学大学院商学研究科の菊澤研宗教授は、前職時代から何度かインタビューさせていただいているのですが、




旧日本軍の組織的分析を、経営哲学、最新経済学理論の観点から分析している点で、ユニークな方です。




旧日本軍の検証では「失敗の本質」という名著がありますが、これとは異なるアプローチです。




菊澤先生のアプローチは、単純明快です。




「人は、限定合理的であり、人は合理的に失敗する」。




「限定合理」とは、人はある決断を下すために、あらゆる情報をかきあつめ、客観的に分析することは不可能だという意味です。




よって、限定的な、断片的な情報によってでのみ判断することを強いられます。




ゆえに、人は合理的に失敗するのです。




菊澤先生は、この状況を突破するために、組織に不可欠な要素として、「命令違反」という行為を掲げます。


*この「命令違反」の効用については旧日本軍のさまざまなケーススタディで分析されています『「命令違反」が組織を伸ばす』(光文社新書)




東大の児玉教授は、国会で、ご自身法律を犯し、放射線量の高いさまざまなサンプルを持ち帰って調べていると告白しました。




放射線物質におかされたものは、法律によって勝手な移動は禁じられています。またそれを調べるための機器も勝手に動かしてはならないそうです。




よって全国の大学にある放射線分析機器はすべて、現場に持ち込まれず、現場は、きわめて乏しい機器でサンプル移動もできず、調べざるをえない状況に陥りました。




しかしながら今回、児玉教授は、あえて法律をおかし、これ以上の拡散を食い止めるための手立てを考えるべく、科学者の良心に基づき、「法律違反=命令違反」を行ったのだと、わたしは理解しています。




大震災で被災した店舗も、店長が自分の責任において、本来は企業の資産である商品を無料で配りました。




先般のセミナーでツルハの阿部常務が、炊き出しひとつ保健所の許可が必要ということで、ストップがかかったというお話をされました。




ですが、寒い思いをしてお腹をすかせた被災者の皆さんを前に、ツルハさんは敢然と炊き出しを行いました。




厳密に言えばこれは「命令違反」です。




ですが、これが全体失敗に陥らないための唯一の方法であることも事実です。




組織の全体失敗を救うためには、個々の信念に基づいた「命令違反」も重要であることを、リーダーがどれだけ理解できるか。官僚は非常事態であっても自分の領域を侵されることを嫌います。これがどんな小さな組織にも生じる官僚主義の本質です。




官僚主義を排し、自分の責任において、命令違反を認める・・これが組織のリーダーの力量です。