きのうに続き、佐野恵子さんのレポートよりピックアップです。
詳細レポートは、月刊MD9月号(8月20日号)にて掲載しますので、楽しみにお待ちください。
さて、ウォルマートUSAが2年も既存店割れをしている中、2011年は既存店をプラスに転じたターゲット。
「低価格とデザイン」を両立させるMDは日本の業態にはないものです。
伊勢丹に勤めている友人が、10年近く前に、
「伊勢丹はターゲットをつくるべきだった」という言葉をもらしていました。
故武藤社長に可愛がられた優秀な若手のホープでした。さすがに先見の明があった。
ターゲットはデイトンハドソンという百貨店がつくったディスカウントフォーマットですが、
いまは百貨店を事業から切り離してしまっています。
ターゲットは、ニューヨークコレクションの公式スポンサーでもあり、いわゆるハリウッドセレブが日常的に買物するというイメージを作り出しています。
「iPod」を世間に知らしめたのもターゲットだと言われています。
これはアップルストアだけでは火がつきませんでした。
センスのよい商品をあつかう「ターゲット」というイメージが確立していたからこそ、感度のいい人たちが飛びつき、すそ野が広がったと言います。
いま、強みのアパレル部門も、人気新進デザイナーを集めた「ゴー・インターナショナル」が絶好調。
これは伊勢丹のかつての「解放区」を思わせます。
オンライン販売、スマートフォンをつかった集客も先手を打っており、スマートフォン経由のオンライン販売訪問者は全体の8%になっており、確実にそのシェアは広がっています。
またアマゾンに委託していたサイトも年末までには自社サイトに移行。
いよいよ、ターゲットの「リアル×ネット」の仕掛けがはじまるのでしょう。
ターゲットの強みは自社内に強力なデザイン部門をもち、世界各地に27か所TSS(ターゲット・ソーシング・サービス)を抱え、QC(品質管理事務所)を48か所持っていることです。
これで、抜群のセンスで選び抜かれたコモディティ商品とライフスタイル提案商品を「驚くような低価格」で提供するというフォーマットをつくりあげました。
このコモディティ(生活必需品)というのが大事。
歯ブラシひとつ、消費者がおなじような商品であっても、「ウォルマートやウォルグリーンで買っていないのよ、わたしは」と思わせる力がターゲットにはあるのです。
最近は、「Pフレッシュ」という生鮮食品を強化した売場を導入し、来店頻度と客数を高める試みを行っています。いま「Pフレッシュ」は全体の30%まで導入され、随時、入れていくようです。
「低価格とデザイン」を両立させるMDを成功させているチェーンは極めて稀です。IKEA、H&M、ZARAといった家具やファストファッション系はありますが、総合品種店では少ない。
日本の総合スーパーや百貨店もターゲットの真似事を一生懸命、部分的ですが、取り組んできたこともあります。
ですが、やはり「ターゲット」をつくりきれてこなかったのは残念です。
理由はいろいろあります。
個人的に最大の理由だと思うのは、
「低価格=悪=デフレの元凶」というような思想が小売業界にも少なからずあったことです。
「低価格=カジュアル=気安さ=気楽なライフスタイルチェンジ=常なるインスピレーション&イマジネーション」と考える人が少なかった。
低価格を批判する人は、結局、「価格」というドグマから抜け出られていないのです。だから高いか、低いかの判断基準しかない。
日本の百貨店、総合スーパーなどの総合品種店に、スティーブ・ジョブズがアップルストア以外で、次世代最新機器を置きたくなるかどうか。
または逆に、消費者がまずその店舗で買うことを想起できるかどうか。
これがターゲットのつくりあげたブランドです。
日本にはまだない。わたしはここがMDの空白地帯だと思っています。