月刊MD9月号では毎年、インターパシフィックスの佐野恵子さんによる米国流通チェーンの決算詳細分析を掲載しています。
ことしも原稿があがってまいりました。
日本政府の借金も大変なレベルですが、米国の国家財政も厳しさが募っています。
そんな状況の中の各社決算ですが、詳細は月刊MD9月号をお読みいただくとして、気になった部分をピックアップします。
リーマンショック後も、堅実な強さを見せていたウォルマートは、全体では増収増益を達成していますが、売上の62%、営業利益では78%を占めるウォルマートUSAの既存店売上(約3800店舗)が8四半期マイナスと言う問題を抱えています。
その主たる理由として、下記2つが挙げられています。
1)「プロジェクト・インパクト」の失敗
流通業界のマクロの動向についてご関心を持つ人なら、ほとんど知っていると思いますが、
「プロジェクト・インパクト」とはウォルマートが2008年ごろからはじめた改装計画のことで、
「セーブ・マネー、リブ・ベター」(節約しつつより豊かな生活を)
「ウィン、プレイ、ショ―」(価値ある商品のみを扱う)
「ファースト、フレンドリー、クリーン」(清潔感のある売場で、より速く、より親しみやすい買物の実現)
で表現される中長期計画による売上、利益増大化、在庫効率化などの実現目標のことです。
端的に言うと、「ファースト、フレンドリー、クリーン」を重視するあまり、
ウォルマートの強みだった主通路沿いにパレット積みで展開されるバリュー、プライス訴求が高い販促商品(アクションアリ―)」売場を大幅に取り除いてしまったのです。
さらには、「ウィン、プレイ、ショ―」による在庫、アイテム数の削減、PBの増加もこの「アクションアリ―」撤去によるバリュー感喪失に拍車をかけました。
これが、常連顧客のダラーストアなどへの、より廉価業態への流出を誘引したと言われます。
しかしながらこの失敗をすぐさま切り返し、2012年の第一4半期は、「ウィン、プレイ、ショ―」によってスーパーセンターの13万アイテムのうち、10-15%が削減された中で、その半分程度が再在庫されました。
これらによって、コア顧客層の再来店を促し、第二4半期はその成果が出てくるだろうと言われています。
日本ですと、たとえば副社長肝いりのプロジェクトの場合、失敗と気付いていてもなかなか方針転換できないものですが、このあたりはさすがにウォルマートです。*副社長が創業家の息子さんだったりするとなおさらです。
過渡なアイテム削減と売場の整理は、利益率を押し上げましたが、コア客層の流出を招き、今回は利益率アップよりも、顧客政策を重視したということです。
2)ターゲット客層の縮小
もうひとつが、ターゲット客層の縮小です。
同じディスカウントストア業態である業界第2位のターゲットは、既存店売上を前年のマイナス2.5%からプラス2.1%に改善しており、ウォルマートと対照的な業績を残しています。
この大きな理由のひとつが、ウォルマートとターゲットのターゲット顧客(コア)の違い。ターゲットは年収7万ドル(約650―700万円)の世帯がメーンターゲットであり、この世帯は比較的に失業率が低く、世帯経済力回復も基調に入っているのに対し、
ウォルマートは年収7万ドル以下がメーンターゲットであり、実情は5万ドル以下に集中しています。また米国の生活保護の一環であるフード・スタンプ(食品購入券)を支給されている世帯は、2011年4月で2107万世帯。全世帯数の18.7%になっており、かれらの購買力低下も影響しているものと思われます。
ただ、ターゲットもディスカウントストアの名に恥じず、ある売価調査会社によると、買物バスケットあたりの価格比較はウォルマートよりも安いという結果も出しています。
もちろんこれは全商品比較ではありませんが、ターゲットもまたウォルマートの「セーブ・マネー、リブ・ベター」戦略に対して、真っ向から勝負しているという見方もできますね。
ただウォルマートとターゲットの差は、世帯所得の購買力格差という要因もあるでしょうが、やはり根幹は、MDの違いにあると思います。
ターゲットは、デイトンハドソンという百貨店がルーツの会社で、デザインと価格のバランスにおいて強力なMD力を誇る企業です。
ターゲットのお話はまたの機会に。