わたしのリテールマーケティングの師匠加藤夕紀子先生の商業施設づくりのキーワードは、




「ここが私の一番楽しい場所」をどうつくるかということでした。




もうひとつのキーワードは、




その楽しい場所を、




「みんなで作り上げていく」ということです。




先生は、Nova Voce という合唱サークルの代表を務めていらっしゃいます。




これは東急田園都市線沿線にお住いの方々が中心になって結成された趣味のサークルです。




先月の18日に、みなとみらいの大ホールで、1500名の聴衆を前に、東京フィルハーモニーと共演しました。




同サークルは、古楽の世界で若手の第一人者の青木洋也氏が指導しており、東フィルの首席チェリスト黒川氏とのつながりで実現したもの。




共演は2回目で、演目はモーツアルト。大成功裡にフィナーレを迎えたそうです。すばらしいですね。




合唱サークルの人たちは、宗教曲をモノにすることがやはり究極の目的だそうで、次回は2時間半以上の大作に挑まれるそうです。




すごいですね。




震災発生後、いくつものイベントが自粛という名のもと、中止や延期になりましたが、最近行われているこのようなコンサートは、どこも盛況だそうです。




またサークル活動も、「人とのつながり」を求めて、大事な地域のコミュニティ空間になっています。




Nova Voceは、素人サークルですが、最近は、素人系でも大きなコンサートなどにエントリーする際は、選抜メンバーを決めるオーディションなどがあるそうです。




Nova Voceは、一切オーディションを行いません。だれでも参加できて、みんなでとてつもないことを成し遂げていくという「理想の素人合唱団」を目指しているそうです。




サークルの中には、オーディションの有無に限らず「だれだれさんがいるから嫌」という空気を嫌って移られた方もいらっしゃるとか。これって子供の世界も大人も共通ですね・・。




みんなで一人の技量を、一人がみんなの技量を高めていく、まさしくオールフォアワン、ワンフォアオールの精神ですが、なかなかできることではありません。




サークルの人たちは、時間にすれば、わずかなこの仲間との時間をこの上なく大切にされています。




家に戻れば、親の介護、ご主人の介護を行っている人もいます。




サークルが「ここが私の一番楽しい場所」であり、リフレッシュしてそれぞれの実生活へ戻っていくのです。




ですが、加藤先生は言います。




リフレッシュと現実逃避は異なると。

リフレッシュは、回帰運動ですが、現実逃避は、直線運動です。前者は、外も内も連環していますが、後者は、行ったきりなかなか戻れません。戻るほどに、現実とのギャップに苦しみます。


実はサークルも介護活動もリアルな「生活」です。この2つが連環しているからこそ、現実を肯定する・・肯定できるから、厳しい現実の中にも小さな希望を見出すことができるのではないかと思います。




店舗も実生活からかけ離れたイベント的生活提案はただの「現実逃避」提案です。




よく商業施設は「非日常」という言葉を使いたがります。この施設にきて「非日常」を経験してください・・




そうではなく、




「理想の生活を現実の生活の中に組み入れる」「非日常を日常に取り入れる」・・つまり、内と外をわけるのではなく、外を内の世界に組み入れるのです。ここを勘違いしている人は多い。




「非日常空間」は残念ながら限られます。東京ディズニーリゾートやほかに存在しないものがある観光地などです。




ですが商業施設は、TDLや観光地ではありません。ほかに新しい施設ができれば人はそちらへ行きます。




そういう現実の中、ひとつの商業施設を「わたしの一番楽しい場所」にすることは、たんに商品、ブランド、サービスの寄せ集めでないことは自明の理ですね。




前回ブログでも取り上げた京急百貨店さんやもららぽーとさんも、非日常や理想を現実の生活の一部にどれだけ組み入れるか、つまり連環させるかこれを大事しています。




まわりはマンションだらけで子供たちやペットが安心して遊べる空間がなくて困っているのあれば、ショッピングセンター(SC)がその場所をつくればいいのです。




それじゃ坪効率が悪くなるでしょ!という人もいますが、そんなあほは放っておきましょう。




以前、私があるデベロッパーさんでセミナーをさせていただいたとき、




駐車場をすこしつぶしても、駐車場の真ん中に公園とフットサル場をつくるべきと言ったところ、そのデベロッパーさんは、いままでは屋上に作っていたのですが、駐車場のど真ん中につくった。そうすると皆さん観客になってくれるのです。駐車場をストリート感覚の空間にしたところ大成功しました。

大型の商業施設は、緑地公園が、義務付けられていますが、ほとんどか、付けたしみたいに端っこにありました。


残念ながら1年前にリニューアルされてしまいいまは撤退しましたが、そのフットサル場でショッピングセンター(SC)の名前を冠した大会を何度もやって地元では有名な大会になったそうです。




屋上にあるテニススクールや、フットサル場は、外のイベントです。外のイベントだから、そこの利用者は「自分のSC」という感覚がありません。そこを利用する子供たちの親御さんも「SCは買物する場所」で終わってしまいます。




子供に大人気のダンススクールや、音楽サークルもほとんど、階上やフロアの奥まったところにありますね。




優秀なデベロッパーさんなら一等地で「見せる」でしょうね。




ダンス系のPVをどんどん流して、ダンス系のファッションブランドをどんどん入れる。もちろん週末は必ず参加型イベントを行う。そしてコネがあれば、なんでこんなSCに「エグ○イルの○○さんが・・」みたいな感謝レクチャーイベントを仕掛けます(笑)。そうすればキッズのママさんたちも絶対、ここで夕飯の買物をしてくれるでしょう(笑)。




飲食業の方なら当たり前なんですが、ウナギや焼き鳥はにおいを嗅がせてお客様を呼びます。




かつて島村楽器さんも言っていました。




せっかく近所の高校生たちが一生懸命音楽活動をやっているけど、公共施設はいっぱいだし、かといって外で大きな音は出せないし、ショッピングセンター(SC)の中なら可能性があるんじゃないか。




島村楽器さんはSCに入居するときスタジオも一緒につくるモデルを打ち出しました。




ですが、理解のあるデベロッパーさんはまだ少数。それは利用する中高生が、その店舗とSCを「自分の空間」ではなく、「お金を出して借りている」という感覚だからです。お客さんなんです。だから自分たちのことしか考えていない。




中高生の皆さんが、「ここには世話になっているから音楽でお返しがしたい」と思われる空間づくり、周囲の学校がいつもうちの生徒がお世話になっています」って言われる商業施設・・これって伝説のライブハウスみたいですけど、SCのコンセプトとしても重要じゃありませんか?




これが、加藤先生のSCづくりの2つのメインコンセプト、




「ここが私の一番楽しい場所」




それを




「みんなでつくりあげる」。




店舗もスタッフも、地域の人たちも参加して。



いまノーコンセプトの、SCリニューアル案件が、全国にたくさんあります。不良資産をもう一度蘇らせる方法はここにあります。

有名ブランドを引っ張ってきて、リーシングの巧拙を評価するだけの時代は終わりです。