月刊MD編集長(2代目)のブログ



わたしのリテールマーケティングの師匠、加藤夕紀子先生。




きのうは、渋谷で久しぶりにゆっくりお話を伺いました。




わたしに、「ほんとうの生活をみる」ということの大切さと方法をご教授くださった方です。




京急百貨店を経て、三井不動産商業施設本部の専門役として、ららぽーと柏の葉、豊洲、横浜、磐田、ラゾーナ川崎などの実地調査およびコンセプトメイキングに携わりました。




ららぽーとはこの厳しい時代でも、業績は好調です。


それは加藤先生がつくりあげた新時代のSCのコンセプトがしっかりしているからです。




その新ららぽーとの原点となったのが、京急百貨店。




同店は、地方百貨店として知る人ぞ知る名店。


ちょっと正確な数字は失念しましたが、百貨店逆風の時代、対前年比売上クリアを130か月以上続けた店舗です。




この百貨店、いわゆる百貨店業界の人たちは、低評価です。


百貨店業界の人たちは、ブランドと商品、サービスで、店舗を評価したがります。




「このブランドを引っ張ってきたのはすごいなあ」


これが百貨店の人たちの評価基準でした。




でも京急は「人」です。




そもそもこの電鉄系百貨店が横浜から電車で10分程度のところにできるときいて、


既存の横浜のある百貨店は、化粧品やバッグ、婦人服などの有名ブランド、卸各社に圧力をかけました。




笑っちゃいますよね。




なんてことはない、その百貨店は他人のふんどしでしか商売をしていなかったのです。




京急は最後発ともいえる百貨店でしたから、そういうセオリーどおりのブランドも入らず(*いまは入っていますが)いろんな企業からやってきた人の集合でした。




ですからゼロからコンセプトをつくらざるを得なかったわけです。




加藤先生が掲げたコンセプトは、




お客様を巻き込んで、




「ここが私の一番楽しい場所」という意識をもったお客様が店舗を支えるような文化をみんなで一緒に作る。




というものでした。




加藤先生は京急百貨店をつくる際、徹底して地域住民の人たちが、毎日来たくなるような「私のお店」と考えてくれるように、徹底したヒヤリングを行いました。




これはよくメーカーさんや代理店さんがやるようなグループインタビューではありません。




家に直接訪ね、その家の冷蔵庫から書棚、箪笥の中まで調べます。




調べるというと語弊がありますが(笑)、そこまで見せてくれるような「お友達」になるのです。




そうすると「よそ行き生活」ではない、「ほんとうの生活」がわかります。




グループインタビューの多くは、「よそ行き語」です。




「こうしたい」「ああしたい」という漠然とした意見を、聞き手のプロ(自称マーケッター)が、うまく自分の考えに誘導していくことが常です。




これでは、ほんとうの生活はわかりません。




いつの間にか、マーケッターたちの筋書きに置き換えられてしまうのです。




わたしもそうした現場をいくつも見てきました。




加藤先生は違います。




徹底して、「している、した事実をきく」です。そこに自分の理論を当てはめません。




この人たちは普段どんな食器で、どんな料理をつくっているのか、料理をつくる文化はあるのか、調理器具はどんなものを使ってるのか・・作り置き(保存食)が多いのか、間食をするのか・・。




旅行にいくときはどんな服装でいくのか、ママさんたちのあつまる場所で食べるものはなにか・・どんな本を読んでいるのか。




たとえを挙げればきりがありませんが、そこで得た「した事実=ほんとうの生活」から売場に落とし込む・・これができる人はなかなかいません。




「ほんとうの生活」に合わせて商品やテナントを揃えるだけでは、まだMDの第一段階に入ったにすぎません。




「ほんとうの生活」MDをベースに、




「ここがわたしの一番楽しい場所」にしなければならないからです。これが第二段階です。




加藤先生がお友達になった京急の周辺のお客様は300世帯におよびこれが、「オーカスクラブ」というサークルに発展しました。設立時には3000人に。この方たちの仲間を巻き込む力が京急MDの核を支えています。




オーカスクラブのメンバーは、それぞれが地域サークルの一団体を率いるほどの力を持つ方々、手芸や合唱、山登り、俳画、ガーデニング、ペット、少年サッカー・・さまざまな地域サークルの核を集合させて、お互いが教えあい、さらにはその人たちが利用したくなる売場をつくりました。




つまりお客様が売場づくりに参加するのです




そしてスタッフはそれを支えるサポーターです。




だからスタッフは徹底してお客様の話をききます。聞く関係になるためには「お友達」にならねばなりません。




お客様から、




「こんなことをした」「こんなところに行った」




「これに困った」「なんでこれがないのか」・・




これらの言葉から、お客様の真の要望を推測して「売場」に落とし込む・・これがほんとうのリテールマーチャンダイジングです。




そうなると婦人服でも、文房具でも、手芸でも、書店でも品ぞろえが変わります。




先日も、先生が京急に行かれたとき、なじみのお客様がスタッフと楽しそうにおしゃべりをしていたそうです。




なんでも久しぶりに横浜に戻ってきたそうで、京急にきておしゃべりをして、




「帰ってきたなあ」と感じたそうです。




そのあと、そのお客様は、スタッフの女性たちに、




「みんな、あとで、これでお茶飲んでってね」と1万円札を置いて行ったとか。




すごいですね。




繰り返しますが、お客様にとって、




「ここが私の一番楽しい場所」と言っていただけるお客様をどれだけつくるか。




これが小売業の最大の本質です。




だからお客様は楽しいおしゃべりに付き合ってくれたスタッフにお茶をご馳走したくなるのです。




このお客様を巻き込み、売場のMDにつなげていく方法論は、ららぽーとでも受け継がれています。




それが「ララクラブ」です。




「ララクラブ」がただのカルチャーセンターではない、地域サークル参加型のクラブであるのはここがルーツなのです。




さて、きのうは加藤先生から先生が代表を務める合唱サークルについて、素敵なお話をきくことができました。




長くなりましたので、このお話は続編にて・・。