多店舗展開するチェーンストアは、よく「金太郎飴」だの、「マニュアル主義」がいかんだの、揶揄されます。


とくに「マニュアル主義」はよく批判されます。


批判する気持ちはよくわかります。


一番の理由は「融通がきかない」ということです。*まあこの融通という言葉の定義も難しいですが・・。


この前、テレビを見ていたら、ぼかしが入っていましたが、義援金を申請しにきた被災者に、自治体の職員さんが、


職員「本人確認できるものないですか?」


被災者「ぜんぶ流されてしまいまして・・」


職員「認印もないですか?」


被災者「ぜんぶ流されたもので・・拇印とかじゃだめですか?」


職員「だめです」


卒倒しそうになりました・・。


なるほど、だから、義援金が現場に届かないんですね。


これは「マニュアル主義弊害」の最たるものでしょう。


もちろん、自治体のほうも言い分はあるでしょう。


「公平性、正確性が担保されない」「業務が多すぎて手がまわらない」・・というのはよくわかります。


しかし、この前チャリティ寄席で木久扇師匠が言っていました。


「田中角栄さんなんて、金権政治だ、ばらまき政治だなんて非難されましたけど、いま日本に必要な人ってあーいう人じゃないですか?ヘリコプターにのって被災地上空でお金ばらまいてほしいですよね」


活字で書くとあんまりおもしろくないんですが(笑)、タイムリーな笑いってこういうのを言うんですよねえ。

公平性、正確性よりも、まず人の気持ちに沿うことが大切な場合もあるのです。

業務が多すぎるなら、なにが優先度が高いのか、トップは決めなければならない。


クレーム対応などはまさにそうですよね。


さて、チェーンストアでもたしかに「融通がきかない」って批判されることは多い。


お客様のかゆいところに手が届くような接客が常にできるかについては、残念ながらできにくいでしょう。


でも、だからといって「チェーンはかゆいところに手が届かない」からだめだということではないと考えます。


これは整理する必要がある。


チェーンストアが行うべき顧客満足や社会貢献は別にあります。


多店舗しかできない価値がある。


ここでは本題ではないので、深くは触れません。


ただ現実として消費者は成熟化し、多様化しています。


それにすべてキャッチアップしてサービス提供することはなかなか難しい。


そこにギャップが生じるのはやむをえません。


言うなれば、サルト(仕立てや)の注文を既製服販売店にお願いするようなものです。


サルトを利用する人が既製服チェーンを批判するのはお門違いというものです。


だからもっともっと小売流通業の多様性、豊かさは個店であれ、チェーンであれ活性化されなければなりません。


そうなるとミスマッチは減ります。


そもそもマニュアルはなぜ必要か?なぜ大事なのか?


この本質を理解するのが、本題。


一番、しっくりする説明は、やはり渥美先生の講義録の中にありました。


渥美先生は日本流通における多店舗展開理論「チェーンストア理論」を体系化した人ですから、


「渥美理論=マニュアル主義、教条主義」と考える人は大勢います。


渥美先生は、マニュアルをこんなふうに説明しています。


「マニュアルはカメラが一番よくできている。カメラの使い方、様々な機能について、一番整理されており、だれもがこれを読めば写真をとることができる。ただし、とった写真のできあがり(うまい下手)は人によって異なる。これがマニュアルの本質だ」。


わかりやすいですねえ。


たしかにカメラは誰でも使えますが、何をとったか?どんな風にとったのか?人に与える印象は千差万別です。

一枚の写真で人はどうしようもない感動がこみあげてくることがあります。


チェーン店舗もそうだと思います。


マニュアルは本来、顧客満足のために各法令、行政指導の徹底周知から、お客様を不快にさせないための経験則を一般化したものであって、これは修得すればカメラと同じ、だれでもお客様を不快にさせない接客の基礎ができます。


ただし、マニュアルをベースにしたうえで、お客様に与えるインパクト、これは写真の仕上がりと同じで、それぞれパーソナリティによって異なります。


ですので、「接客が悪いから=マニュアルが悪い」のではなく、マニュアルを生かす腕が悪いということなのです。


もちろん、マニュアルそのものが悪いということもあります。


ユッケ問題でも浮き彫りになりましたが、法令無視や安全安心のための必要コストを削ったり、チェック機能の不全、顧客満足のための経験則の積み重ねを常に反映することを怠ってしまえば、それは「マニュアル自体が悪い」になります。


正確に言えば、時代や顧客の変化に応じて経験則を反映しないマニュアルに準じて、さらにそのマニュアルに拘泥するあまり仕上がり(顧客満足)もぜんぜんレベルに達しないお粗末になっている状況→「マニュアル主義の弊害」ではないでしょうか?


だから、マニュアルは常に見直され続けなければなりません。またマニュアルの理解と習熟度をはかり、そこをベースとしたパーソナルなアウトプット(行動や言葉、顧客の具体的なアクション)を評価することが大切になってくるのです。


ちょっとずれますが、iPhoneってすごいなあと思うのは、マニュアルらしきものがついていなくてもなんとなく使えてしまうところ。このインターフェース力はすごいですね。


でも使いこなせている人とそうでない人の差は大きいわけです。


写真の仕上がりとまったく同じですね。