月刊MD編集長(2代目)のブログ

ものすごい駆け足でしたが、夜の会食までの1時間、「松本清張記念館」へ。

2度目です。


入館時間ぎりぎりに入りましたので、ほぼ貸切状態でした。この一人の時間は至福ですねー。


松本清張でマイベストをあげるのは正直難しい。

作品数はおよそ1000点。もちろんぜんぶ読んだことありません。

この膨大な仕事量に比肩する人は手塚治虫くらいか・・。


しかも作家デビューは、実質44歳でとった芥川賞以降です。これから82歳で亡くなるまでの間に書き続けたわけです。


森村誠一さんの文章で、


「執筆量は一か月約2千数百枚、生活時間をコンピュータで割り出すと、食事に1分20秒、排泄に10数秒しかかけていないと割り出されたほどである・・」


とありましたから、すさまじい。


遅咲きの中年新人作家というのもわたしが惹かれる点です。


宮崎駿監督も、「ルパン三世カリオストロの城」が38歳のとき。「風の谷のナウシカ」が43歳のときですから、オリジナルの初監督で世間に評価されたのはやはり40歳を超えてから。


自分もこれからだなあと言い聞かせています。(笑)*これら巨匠と比べてはいけませんが、あえて・・。


それでも松本清張作品は100点以上は読んでいるはず。


その中で、いまでも時折、ぺらぺらめくるベスト5です。


1)「日本の黒い霧」


やはり、ノンフィクション物は面白いです。帝銀事件、下山事件・・個人的には松川事件が一番心に残りました。ここから広津和郎、さらに徳富蘆花に進むきっかけに。また手塚治虫の「奇子」なども併せて読むと、よりパースペクティブになります。


2)「昭和史発掘」


後半の「二・二六事件」ももちろんですが、「天皇機関説事件」と「京都大学の墓碑銘」がお気に入り。「学」の自立がどれだけ危ういものなのかがよくわかります。これ、いまの原発問題とアカデミズムの関係にもそっくりあてはまります。それぞれの独立した事件を追いながら、そこに「通奏低音」を見出す手法はかくあるべしと思う作品。*文藝春秋の当時の担当者(現記念館館長)は、とくに最初から意図的にやっていたわけではないと著作に書いていましたが。であれば、なおすごい。


3)「内海の輪」


推理物は一番読んでいるはずですが、旅と民俗学的要素が詰まっている作品では「Dの複合」よりもこれでしょうか。不倫の逢瀬の相手がかつての兄嫁というインモラル感が好きなのかも(笑)。女性の二面性の発露という点では「張り込み」や「天城越え」も。でもこれを淡々と乾いた文体で書いてあるのが清張。


4)「陸行水行」


古代史ミステリーでは邪馬台国もののこれでしょうか。タイトルがいいですよね。まさしく「魏志倭人伝」からとったものですが、古代史好きにはピンときます。文献の解釈をいまのモノサシではなく、「当時のモノサシ」ではかることの大切さ。これっていまでも重要だなあと思います。


5)「点と線」


あまりに有名な代表作。ですが、父の書棚にあったのは西村京太郎。だからトラベルミステリーに入ったのは、西村さんからのちに浅見光彦へ。でもそこからこのトラベルミステリーと社会モノを組み合わせたモチーフの嚆矢と言われるこの作品に出会って、清張作品に開眼しましたから、やはり記念的な作品です。


(番外編)


「詩城の旅びと」


学生時代短期留学で過ごしたプロヴァンス地方が舞台。NHKで映像化されました。三枝成章さんの音楽(プロヴァンス組曲)が最高です。音楽でいえば、やはり「砂の器」。芥川也寸志さんの旧作ももちろんですが、テレビシリーズの千住明さんの「宿命」も素晴らしい。初演のコンサートに行きましたが、ピアノは亡き羽田健太郎さんでした。


清張作品をモチーフにした音楽の世界も一流ばかりです。*わたしのiPodは「清張」というプレイリストがあります!


こうみると、唯一の自伝作品「半生の記」、時代物や評伝がまったく入っていませんね。ベスト5じゃちょっとしょうがないですかね・・。


これらは別の機会に。