チェーンストアとは、わかりやすく言えば「多店舗展開している企業」です。もうすこし詳しく言えば、「多店舗展開を可能にする組織運営方法論」です。
これを消費者=お客様の視点で捉えるとどうでしょうか。
「多店舗」であることが、お客様にとって個店よりも価値がなければ、「多店舗」の存在意義はありません。
その逆もまた真なりです。
個店は個店であることが、多店舗よりもお客様にとって価値がなければ意味がありません。
チェーン店も個店もお互いが優劣を競うのではなく、それぞれの役割があるのだと思います。
月刊MD5月号では、日本リテイリングセンターの渥美六雄氏より緊急の寄稿をいただきました。
お父上は、日本にチェーンストア産業の種を蒔き育成した故渥美俊一氏です。
渥美先生は、戦後の焼け野原の日本の原風景から、米国で勃興したチェーンストア産業の日本導入に尽力した人物です。
戦争という未曾有の荒廃の中から、様々な産業が復興する中、もっとも立ち遅れていた商業の分野の生産性を高めるためには、チェーンストア産業の勃興しかないと考え、ダイエーの中内さんやイトーヨーカ堂の伊藤さん、イオンの岡田さんなど戦後流通第一世代と呼ばれる人たちの理論支柱となり、昨年亡くなるまで最前線で指導にあたりました。
戦争という究極の非常事態、物資不足の中、渥美先生はチェーンストアを導入する際、もっとも重視したもののひとつは、商品調達(ロジスティクス)です。そして、それは世界各国の幾多の危機をもとに経験知を蓄積した非常事態対応マニュアルにも生かされており、阪神淡路大震災や新潟中越地震などにも大きな役割を果たしました。
今回の大震災は過去の自然災害とは比べようもありませんが、このマニュアルが初動に役に立った、あるいは慌てずに対応できた、なすべきことが整理できたと幾多の企業から声が寄せられているそうです。
その遺志を継いだ渥美六雄氏は、あらためてチェーンストアの定義を、次のように表現しています。
「人々がいつものように買物できる状態を維持することこそ、チェーンストア志向企業が果さなければならない任務である。だれが復興を支援するのか。我々の店の周辺には、生活するための家財を喪失した人、復興を図るのに物資を必要としている人、そして被災は無くとも災害の余波により家計の悪化や生活必需品の欠乏のために不安を抱える人が、ごまんといるのだ。
チェーンストア志向企業がそれを放棄したら、いったい誰が不安定な生活環境のなかで暮らしていく人々の生活を守るのか。
これはチェーンストア組織でなければ、実行出来ない。平時はもちろん、社会インフラが決壊し他社のサービスの利用ができない災害時こそ、商品集荷と店舗運営、物流、情報システムなどの営業管理能力を備え、消費者の手に必要な物を届けることができる組織力が必要なのだ。
我々はその組織を、チェーンストアと呼ぶのである。」
また、災害の派生現象となった「買占め」もこれはチェーンストアが消費者から信頼されていない証左だと看破します。次いつ入ってくるということを明記しないから、人々は不安になって買ってしまうのだと。
これこそチェーンストアの持つ社会的使命だと思います。
多店舗であることのお客様にとっての価値です。
これから長く険しい復興への道のりが続くでしょう。
商品調達で言えば、今後1-2年の集荷計画を立てなければ、なりませんし、メーカー各社も数年は生産計画の大幅な見直しが必至です。
長引く原発問題は、日本経済の最大武器であった製品輸出にも暗い影を落とします。国内の食品生産力も大打撃を受けています。
個人消費を活性化し、内需を下支えする小売流通業もまた最大の試練を乗り越えなければならないことは自明の理です。
月刊MDは総力を挙げて、その方法論を提示しなければならないと考えています。