ビジネス書では、「過去の成功体験をいかに否定して乗り越えることができるか」をテーマにしていることが多い。
これは普遍のテーマだと思う。
月刊MDも小さな成功体験の事例を集め、それを読者のみなさんにお伝えすることを使命だと思って、日々取材と執筆活動を続けている。
だがある人はいう、
成功体験を法則化したところでそれは「過去」の話。
いま現在と未来を生きるわれわれにとって、それが役に立つかどうかは、
しかるべき視点と教養が必要だと。
当然のことながら、あれやこれや成功例をそっくりそのまま真似るだけの人は、いっときは成功しても継続しない。
「知識と教養の違いは、前者がクイズのように一対の質問と答えとなっているもの。後者は知識を組み合わせてまだ自分が知らない未知の解答を導き出す飛ぶ力」
こういったのはたしか内田樹先生。
すぐれた店長さんをみると、
この商品は、こうやったらこう売れる=知識
この商品とこの商品を組み合わせたら、こういう人が買ってくれるのでは=飛ぶ力、すなわち教養
この2つがあるということを実感させられた。
いま店舗に必要なのは、「飛ぶ力」。これが支持されている店舗の現場力だろうと思う。
もうひとつ、
わたしも、ビジネスの成功経営者、著名な歴史上の人物の華々しい評伝はモチベーションになることが多い。
パイオニアとなった事業や歴史的偉業は人々の関心が集中し、さまざまな角度で議論される。もちろん私も大好きだ。熱狂は人々をあつくする。目標にむかって一心不乱に突っ走る情熱は、人々を惹きつけてやまない。
龍馬やジョブスといった人がそうだろう。
だが、そのような成功事業、達成しえた歴史的偉業に伴う陥穽にいちはやく気づき、冷静な心配りをした人物は少ない。人々の関心も薄い。
熱狂に歯止めをかけられる透徹した見通しと冷静な分析、バランス力・・これがカリスマと呼ばれる人のまわりにいるかいないかで、事業の継続性が決まるのではないかと思う。
この話は、実は、15年以上も前、大学を卒業して最初に就職した小さな工学系出版社に勤めてたときに、会社の顧問に聞いた話だ。
顧問の名前は、麓邦明。田中角栄の第一秘書だった男である。共同通信記者時代に、角栄が三顧の礼をもって迎えた人物。
若手官僚と大学の若手研究者、金融機関の調査部から精鋭を選抜し、日本列島改造論の元となった「都市政策大綱」をつくったチームを編成し作り上げたのも彼だった。
わたしは幸運にも、社長が大学時代の同期の縁で、ふらりと会社にやってきた最晩年の顧問に1年ほどお話をきく機会を得た。葬儀もお手伝いで伺ったが、錚々たる政治家がやってきてびっくりしたものだ。
大学を出たばっかりの若造には理解できないことも多かったが、15年のときを経て、実感することもある。
麓邦明は後年、角栄の元を去った。
彼は角栄に、当時角栄の意向を左右すると言われたある女性と縁を切るように迫った。
角栄は黙ったままだった。
それが彼が辞した最大の理由だったという。