きのうは、単行本の企画対談で、薬剤師教育の第一人者、堀美智子先生の収録を行いました。

最近は、くすりの先生としてマスコミにもよくご登場されます。

薬学の実践の場における生けるデータベースのような方です。


月刊MD編集長(2代目)のブログ

ご自身で薬局を経営する傍ら、大学から小学校の学校薬剤師まで現場教育にあたられています。

役所の委員会など公職も歴任、さらに大手製薬メーカーのコンサルまでこなすマルチキャリアの経験から積み上げられた指導力は最高峰でしょう。


月刊MDにもときおりご寄稿いただき、インタビュー記事も掲載しますが、久しぶりにじっくりお話をうかがって、ほんと勉強になりました。


いま、堀先生はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の早期発見プログラムを調剤薬局を中心に取り組んでいます。

いくつかの地域薬剤師会、Dg.Sが実践に手を挙げて本格的な活動がはじまります。


地域の医師会、看護師会とも連携し、薬剤師が地域の医療従事者のひとりとしての存在意義を高めていく

機会をつくろうとしています。


堀先生によれば、


薬剤師は残念ながら、ほんとうに地域医療に貢献しようと考えて実践している例が、まだまだ乏しいと言います。


いろいろ、いま調剤薬局の現場で起こっている現実や課題についても伺いましたが、


考えさせられた例を。


「児童虐待」・・いやな言葉です。


一見、なんともない親子関係に見えて、


ひょっとすると・・と思うことが、調剤の待合室の親子の様子を見ているとわかるそうです。


児童虐待している親でも、いくらかは子供のことを考えることがあるそう。


外用の傷薬が定期的に出たり、

待合室の間も子供に怒鳴り散らしたり、

逆にお互い一言も口をきかなかったり、


そういうときに、なにかの前兆に気づいてあげられるのではないか。


もちろんプライバシーですから立ち入ったことを聞くのは難しい、


でも薬の履歴をみるだけで、なにかおかしな使い方をしているということに気付くこともあるそうです。


薬剤師は薬効を切り口に、細かな状況をきくことができます。


切り傷、打撲など部位と数、頻度をチェックする。


医師の先生に相談したところ、なにかおかしいねということになって、注意深く見るようになり、

お母さんもうつ状態がひどくなるときがあるということがわかったそうです。


悲しい例ですけど、実際にあった話だそうです。


これは薬剤師さんが、単なる薬の受け渡しを職務として考えるのではなく、社会に関心をもち、自分の患者さんに対してほんとうの愛情をもって接することによって、気づけた例ですね。


ほかにも、


ある薬を飲むようになり夜中にトイレに行く回数が増えて、薬が嫌いだと言う。

睡眠がゆっくりとれなくていらいらしてしまうからです。


で、薬を飲まないから、肝心の症状がなおらない。


利尿成分がないはずなのに、おかしいと思って聞いてみると、


その患者さんは、薬を飲むためにコップになみなみの水をついで飲み干していることがわかった。


そこで薬剤師は、医師とも相談して、水がいらない薬に切り替えたところ、症状もよくなった。

しかも夜トイレに起きなくなって、十分睡眠がとれるようになった。


これが、


「化学物質で生体を観察することができる唯一の職能」と言われる薬剤師の力です。


バイタルチェックと薬からその人におこっている小さな変化を見抜く。


ある意味「クスリ探偵」ですね。


医薬と臨床における膨大なデータベースと現場で得られた経験則を組み合わせて、ソリューションを提示する力が薬剤師に求められています。


これは医師、看護師にとっても強力なパートナーです。


堀先生はこうもいいます。


「コミュニケーションが大事というでしょ?お天気の話をして患者がお話を切り出しやすい環境をつくることも大切だけど、なにを情報として伝えて、患者が実際困っていることを実際解決することができてはじめてコミュニケーションは完結するのです。『なにを』という具体的な答えを薬剤師がもっていないことが最近はとくに多い」。


堀先生の口癖は、恩師からいただいた言葉だそうですが、


「薬剤師で生きる」ではなく、

「薬剤師として生きる」。


前者は、資格をとって食っていくための手段として薬剤師の仕事をしている人、

後者は、自分の専門スキルを生涯磨き、社会貢献できる職能としての使命感をもち、それが最大限生かされるよう努力をする人。


薬大はこの10年で、新設校がおよそ倍に増えた分、偏差値も平均10ポイント下がってしまったといいます。かつては女性の資格として不動の人気を誇っていたのですが、6年制になり、経済的負担から一時期は志望者数も減ったと言います。医学部はちょっと無理という人もやはり多いとか。こういう状況だとモチベーションというか、夢がなくなりますよね。


ほかのどんな資格もそうでしょうが、安易に資格があれば食べていけるという時代ではなくなりました。

弁護士や会計士だって、資格取得後の未就職率はいまものすごく高い。


たぶん、優秀な人たちなんでしょう。

よく言われるようにペーパー秀才で営業力とかそういうメンタルタフネスな能力に欠けているのかもしれません。


でも資格はあくまでツール、手段です。それをつかってどんな社会貢献ができるか。他人を幸せにできるか。


自省もこめて、他人の幸せを自分の喜びにかえる力をもちたいですね。


月並みですが、これが仕事のモチベーションの根幹ではないかなと思います。