正直試合開始からの80分は失望しかなかった。

 

W杯とはサッカー界で最も権威のある大会であり、これまでの歴史と同様に今回の決勝も、その名に恥じないような、後世に語り継がれる伝説の試合になるべきである。

 

それが途中までフランスはシュートが1本もなかった。4年に1回しか見ることができない試合がこんな凡戦になってしまうのは残念でならなかったし、怒りさえ湧いていた。

 

フランスは勝利したイングランド戦でも感じたが、結局場当たり的な勢い任せのチームである。勢いに乗っていればそのままの勢いでとことん行くし、逆に流れが悪ければそのままなんの修正もなくズルズル行ってしまう。

 

ただ言い方を変えれば、流れはなくともちょっとしたきっかけさえあれば、一気に自分たちのペースにもっていってしまうという怖さを持つということでもあるのだ。

 

そのきっかけが1点目のPKであり、それで得た勢いがその直後のエンバペのスーパーゴールへと繋がったのだと思う。

 

たった2分間でアルゼンチンのそれまでの80分が無駄になってしまったわけだが、これでこそ優勝し甲斐がある。もちろんアルゼンチンサポーターにとっては何よりも勝利が最優先だろうが、決勝という舞台の煌びやかさに惑わされることなく、純粋に心の底から熱中できる状況がこれで整ったのではないだろうか。

 

そしてそこからはまさにワールドカップの決勝に相応しい、もしかすると歴代の決勝の中でもベストなのではと思わせるような伝説の試合となった。

 

延長後半にメッシが決めたゴールで試合が終わっても、ストーリーとしては文句のない素晴らしいものになっただろう。しかしその後にエンバペが決めた同点ゴールは、この試合を書こうとしても書けないであろう究極のドラマへと昇華させた。気付けばアルゼンチンが初戦でサウジアラビアに敗れたところから、すでにそのドラマは始まっていたのかもしれない。

 

メッシは今回の優勝で、ようやくマラドーナから受け継がれてきたサッカー界の王という肩書きを確かなものにすることができたと思う。そしてこの試合のエンバペの大活躍は、その役割をこれからはエンバペが担っていくという決意表明でもあったように感じられた。

 

試合終了後のアルゼンチンの選手たちを見ていると、自分もこの場に行きたいという羨ましい気持ちになった。選手やサポーターがほとんどが家族と喜びを分かち合っており、インタビューではみんながこの優勝をまずは家族に捧げたいと言っていた。

 

つまり、普段の試合は自分にとってはるか遠くの非現実的な世界であるため憧れも何も描く余地はないが、この試合は家族愛という、自分にとって身近にあるものを感じられたからこそ、恋しい気持ちにさせられたのだろう。

 

そしてその家族愛があったからこそ、アルゼンチンはチームという家族として、あれだけメッシのために団結して戦えたのだと思う。それが良い方向へ働けば今回のような感動的なドラマが仕上がるし、逆に悪く働けばオランダ戦のように理不尽でカオスなものが出来上がる。まさに表裏一体である。

 

最後に、この試合を生で見届けるとこができて良かったと心の底から思う。伝説としてこれからも色あせることはないだろうし、むしろこれから語り継がれていくことによって、伝説としてさらに研ぎ澄まされていくだろう。

 

この1試合だけで、これまで63試合あった今回のW杯の評価は大きく好転しただろう。3戦全敗のカタール代表を見て失望したカタール人も、この試合でその悪夢を忘れ去るくらい満足したと思う。結局終わりよければ全てよしなのかもしれない。