「あ……―――!!」
叫んだ瞬間、体が宙に浮く。
スローモーションの世界、葉の驚いた顔、そしてこちらへ伸びる腕が私の手を強く握りしめて。
どすん、と衝撃が走る体、少し遅れて体中に痛みが走った。
「う……痛……」
一瞬の出来事でなにがなんだか理解できないまま、目をぎゅっと閉じて痛みに耐える。
そうしているうちに、自分がしでかした事が何だったのかようやく頭の中で再生がスタートした。
そうだ、今日は朝からとっても良いお天気で。
私も葉もたまたまお休みがかぶって。
それじゃあ買い物にでも行こうって葉と部屋を出て、マンションの階段に差し掛かった時。
たわいもない冗談に答えるために後ろを向いた瞬間、うっかり足を滑らせて落下したんだった。
ああ情け無い。
我ながらなんて間抜けな事をしたのだろうか。
そこまで反省をした所で、ぐっと腕に力を入れ上体を起こした。
と同時に私の体から何か重いものがずるりと床へ落ちる。
「あ、れ」
焦点が瞬時に合わずぱちぱちと二度早く瞬きをして、床へと視線を送る。
私の体に覆いかぶさるようにあったもの。
起き上がった反動で、力なく床へ落ちた姿。
そこにいたのは、紛れもなく葉だった。
「よ、葉?!葉!」
名前を呼んで体を揺さぶってみる。
けれど葉はぐったりとしたまま、ぴくりとも動かない。
私をかばって、あの時一緒に落ちたの?!
ああ、そうだ。
だってあの瞬間、私の腕を引いたのは葉だったんだから。
「救急車……!!」
足元にちらばったカバンに這いずるようにして近づいて、携帯電話を探す。
焦れば焦るほど、うまくいかない。
指先が小刻みに震えて、背中に冷たい汗がじわりと湧き出てきたのが分かった。
「やだ、葉、やだよ……ごめんね……やだよ……」
口から溢れる謝罪の言葉、ようやく見つけた携帯を開いて119の「1」をタッチした瞬間、ぐいとスカートの裾が引かれた。
反射的に振り返ると、意識を取り戻した葉が苦しそうな顔でこちらを見つめている。
「葉!!ごめんねごめんね!!大丈夫?!どこか痛いとこ―――…」
「俺、なにして……」
私の声を遮るように、葉は右手で自分の頭を押さえるようにしてそう呟く。
「ごめんね、あのね、私が階段から足滑らせて、葉がかばってくれて」
「階段……かばう?」
このあたりにきて、葉の様子が何やらおかしいことに気付いた。
眉間に皺を寄せているのは痛みと戦っているからかと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
床に臥せったまま顔だけを上げて、じっと何かを考えているような……。
「……葉?どうしたの?」
「葉て、俺?」
「……え?」
「俺、だれやっけ?」
え、もしかしてこれって……。