すいか(1) | mcdmの隠れ家

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小説裏話なんぞ…



「それ、どうしたの?」
「貰った」




玄関のドアを開けた途端、目に飛び込んできたのは、大きな大きなスイカ一玉……を妙に大切そうに抱える葉の姿だった。

「も、貰ったって誰に?」

言いながら彼に近づいて恐る恐るその大きな物体をつついて見た。
予想に反してスイカはキンキンに冷えていて、夏の蒸気をゆっくり水滴へと変化させている。

「あの、畑のばあちゃんの―――」
「え?!畑から持ってきたの?!」
「月子サン、話は最後まで聞きぃ。そのばあちゃんのお孫さんが今日店に来はってな。俺らの分と水上さんの分って2つ渡してくれてん」
「ほほう、なるほど。そっかそうだよね、これ冷えてるもんね」

そこで納得して、私はようやくそのお婆さんの姿を頭の中で思い描いた。
私達が住んでいるマンションから少し離れた場所に小さな小さな神社がある。
そこに並ぶようにして、同じように小さな小さな畑がある。
その畑の持ち主が、このスイカを育てたお婆さんなのだ。

毎日朝早くからそのお婆さんは畑にやってきて、曲がった腰でゆっくりと畑の世話に勤しんでいる。
曲がった腰を時折押さえながら、せっせと日が暮れる頃までずっと畑で作業を続けている。
冬には白い息と手袋を共に白菜や大根を、夏には手ぬぐいと麦わら帽子を共にトマトや茄子やきゅうりを。
丹精こめて大切そうに育てる姿を、私も葉も幾度と無く見てきた。
そうしているうちに、どちらからともなく声を掛けるようになり、時折とれたての野菜などを貰ったりもした。
お返しにと私も時間を見つけては飲み物や軽食を持って遊びに行ったりもしていた。
か細く優しい声、ゆっくりと紡ぐ言葉、彼女が微笑むと顔にたくさんの皺が刻まれて、それが私の心をほこほこと暖かくした。

私には祖母の記憶が無い。
生まれる前に父方の祖母も、母方の祖母も亡くなってしまっていた。
だから私はいつしか、このお婆さんを自分の祖母のように心の中で慕うようにすらなっていた。

「そうなんだぁ、お孫さんが。しかし本当に大きいスイカだね。冷蔵庫に入らないよ」

ふふっと笑って言いながらもう一度、今度は優しくスイカを撫でてみる。
冷たく結露した表面はすこしいびつ温かみがあって、それがお婆さんの人となりを表しているかのように感じ嬉しくなった。

「そやなぁ」

私の言葉に葉がぽつんと短く答えた。
短く、か細く、まるでお婆さんみたいに。
寂しそうに微かに微笑んだ。