「シンゴ 久しぶりだなぁ〜」
表向きは 米国大使館勤務となっているジャックはアイビーリーグ時代からお気に入りのブルックスブラザーズのスーツ現れた
「新任の挨拶以来だな、日本に来てどれだけだ?」
滝本が握手しながら聞いた
「来月で2年になるよ、日本は世界一 食事が美味しいから最高だね…前は南米だったからな 有難いよ」
ジャックはCIAでもエリート官僚の一人だが現場が好きで世界中飛び回っている、ラングレーにいると頻繁に〝お呼び出し〟があるから本部仕事は嫌いだそうだ
「本題は、これだろ」
ジャックは そう言いながら、無造作に資料をテーブルの上に滑らせて来た
英文だが secretの赤い文字がすぐ目に入ってきた
ジャックが英語で話しかけてきた
「半年前に本部から届いている…」
「半年…何故もっと早く 連絡してくれなかったんだ」
滝本が問い詰めるように聞いた
「こっち(CIA)も調べることがあったからな、それで暗殺リストではないか?と疑ったんだ、そっち側(公安)に情報を提供して念のために対象者をマークしてもらっていたんだが、結果的には役に立たなかったがな…」
ジャックは最後は嫌味も込めて応えてきた
滝本は それには反応せず 改めて聞いた
「どこまで掴めてるんだ、初めから話してくれないか…」
「こちら側が情報を提供するとしたら 日本はどんな体制で対応するつもりなんだ…内調でまとめるのか?公安か?」
とジャックは突然 荒々しく応えそのまま続けた
「こっちは、早い段階で情報を公安に提供している、シンゴのところに届かないのは 日本側の風通しが悪いからじゃないのか?日本の縦割りも相変わらずのままだな…俺は日本に来てそっち側の名刺ばかりが溜まっているよ、いつも同じことを聞く為に違う部署の人間が次々とな…シンゴは今頃になって知ったのか?パートナーとしては致命的だな、内調も官僚主義だから取り残されたんじゃないのか…」
一気にまくし立てたジャックは、テーブルの灰皿を確認してからタバコをくわえた
「すまなかった、風通しが良くないのは認めるよ、この事件の全容がつかめたら内調で仕切るつもりだ」
と滝本が言った
「同じ組織の一つの部署には 作戦コードを、違う部署には暗殺リストをそれぞれ提供したんだ…日本の組織捜査を試す為に 〝ラングレー〟の指示でな…」
少し冷静にジャックが話し続ける
「この一連の事件は一筋縄では対応できない、世界中の諜報機関が関わることになるからな、もう既に深く関わっているがな…CIAだけじゃないMi6もDGSEも韓国のNISも日本のことを頼りにしていない、むしろ足手まといだと考えていたんだ」
滝本は返す言葉が浮かんでこなかった
代わりに深見が応えた
「私たちは 既に暗殺者の〝養成所〟を掴んでいる、〝そこ〟に関係していた人物をエージェントとして協力もさせています」
滝本以上に流暢な英語で話した
「〝養成所?〟… 〝エージェント?〟」
不思議な顔でジャックが質問する
深見の話を受けて、滝本が続ける、国内の一連の事件は全て 同じ医療刑務所を出た人間だという事、全ての犯行が それぞれ出所後、350日後だという事などを詳しく説明した
ジャックが青ざめた顔で応えた
「驚いたよ…繋がりが… 」
そう言って 少し考え込んだ後
「米国は全員ではないが、同じ医師に治療されている、英国は同じ病院だ、その他はまだ掴んでいないらしいが、多分その線で探れば共通点はすぐ見つかるだろう」

ジャックとは情報交換を密にするという約束を取り付けその場は別れた 
滝本はふたりになると深見を問い詰めた
「エージェントの話など聞いてないぜ…」
深見は少しバツが悪そうな顔をして
「嘘だよ…ジャックがあまり馬鹿にするから 腹が立ってな…しかし、本当にあてがあるからリクルートかけようと考えている人物がいる」
そう言って深見が一枚のメモを滝本に渡した
「神崎達也 10月15日仮釈放 ◯◯医療刑務所」

つづく