諜報機関、スパイ、エージェント…
この世界ほど現実と小説や映画とがかけ離れている事はない、多くの映画に観られる暗殺者のイメージは もはや時代遅れでもある
諜報機関には、情報収集、防諜、分析、秘密作戦の四つの任務に分けられていると言われている
スパイ小説や映画にあるような諜報機関の人間が直接スパイ活動するのではなく、作戦に応じて外部の情報提供者をリクルートして情報を入手することがほとんどである
米国を代表する諜報機関であるCIAとは滝本がいる内閣情報調査室や公安調査庁も情報交換を行っていたり関係者を研修に送ったりもする関係である
007シリーズやmission impossibleシリーズに観られるような人が死ぬようなシーンは実際には存在しない
人が一人死亡すると、ニュースとなり各国の捜査機関が動く、事件の処理も複雑で容易には済まされない、ましてや諜報機関が関係していると疑いが漏れただけで世界的なニュースとなってしまう
一人の人間を抹殺するのはそれだけ困難なことである
今回の一連の事件は それらの課題を全てクリアした暗殺計画である
滝本は頭の中を整理しながら 今後どのように この事件を調べていくかを考えていた
(少なくとも 彼らを消さなければならない 理由が組織側にはあるはずだ…)
今ある唯一の糸口がそれである

滝本は米国勤務時代から親交のあるCIA局員が東京支局に赴任していたことを思い出して彼に連絡することにした
CIAは冷戦が終わった後からは官僚が権限、予算、情報を握るようになり過去の組織とは全く異なる習性となってしまっていたが、その分官僚主義の日本とは〝付き合い易く〟もなっていた

滝本が会う相手もその官僚の一人ではあるが、情報技術が主流の現代の諜報において、今でも熱心にエージェントをリクルートしている〝人的諜報〟を重視する古いタイプのCIA職員である

経済情報が中心だが頻繁に情報交換している相手でもあった 
滝本は 深見も同行することを相手に知らせ電話をきって、その後 深見に連絡を入れた

「〝支局〟に知り合いがいるから、今から一緒に会いに行かないか…」


つづく