「厄介な 手掛かりを見つけたよ…」
会議を終えたばかりの滝本のところに深見からの連絡が入った
「電話では話せそうもない、今から外に出られるか?」
いつも以上に深刻な様子の深見が言った
「少し早いが、一杯やりながらでどうだ」
滝本もアルコールがあった方が良いと判断して深見と待ち合わせた

滝本たちが大学時代から通っている焼き鳥屋は 既に学生たちでほぼ満席だったが、気を利かせた大将が店の奥にパイプ椅子で二人分を用意してくれた
「周りは全員学生だ これだけ騒がしければ盗聴も不可能だ…相当〝ヤバイ〟話になるんだろ」
滝本は深見が話し出す内容こそわかっていないが、彼の様子から危険だけは察知していた
「被害者の〝本当の身元〟が判ったよ」
深見が話し出した
「全員、各国の諜報機関に関係していたという情報が入っている それもエージェント(情報提供者)ばかりだ、欧米での被害者も全員そうらしい…CIA、MI6、BND、DGSE、NIS… 西側の諜報機関ばかりだ 退職者ばかりだが なかには現役もいた 国や地域、職業は違っていたが まさかこんなつながりになるとはな…〝暗殺〟という言葉がピッタリだな」
深見はそこまで一気に話すとビールを一息に飲み干した
「上に報告が必要になってきたな…内調や公安、
自衛隊関係者は入ってないのか?」
滝本が聞いた
「〝殺される〟ほどの情報を持っている人間はいなかったんだろうな、幸いなことだが 反対にまだ世界のレベルに追いついていないのを感じるよ」
深見は立て続けにビールを飲み干している
「これで被害者が計画的に殺害された、という事がハッキリしてきた、計画的な〝暗殺〟としてな…」
相変わらず周りは騒がしいが、滝本は一段と声を落として言った
「しかし、よくその繋がりが判ったな どこかからの情報なのか?」
滝本は糸口がつかめなかったところに入った この情報の出所が気になった
「先日の立体駐車場の事故なんだが、俺の部下は加害者をマークしていたんだが、ある部署の人間が被害者の方をマークしていたのがわかったんだ」
深見が言った
「どういうことなんだ、マークしていた奴らは…もしかして…」
驚きを隠せない滝本が聞いた
「そうだ 公安の奴らだ 現場の映像に見覚えのある奴が同じ警備員の服を着て映っていたんで問い詰めたんだ」
深見が5杯目のビールを飲みながら続けた
「情報交換さ…奴らは〝not guilty〟というワードまでは知らなかったが、最近になって国内で活動している諜報員のリストが匿名で送られてきたらしい、それを確認するためリストにある対象者をマークしていたそうだ」
説明を聞いて滝本が尋ねた
「そのリスト見たのか?」
「リストの存在すら 言うのを渋ったんだから中身まではな…」
6杯目のビールをおかわりしながら深見が応えた
「本格的な〝情報交換〟が早急に必要だな…リストの件は〝事務的に〟上に開示請求するよ」
滝本はまだ一口も飲んでいないが 顔が少し火照っていた

リストの内容も気になるが リストの出所の方が気になってくる
(闇の組織の暗殺リスト…まさか…)
ようやくつかめた糸口だが より事件の複雑さを感じる滝本たちだった

つづく