「テレビ観てくれ、今すぐにだ!」
電話の向こうで深見が叫んでいる
滝本は質問を後回しにして急いでテレビのスイッチを入れた ちょうど夕方のニュースの時間だ
「今日 午後3時に 都内◯◯の立体駐車場 3階から男性が運転するワゴン車が落下する事故がありました この事故で運転手の方は死亡、駐車場に面した道路で誘導していた警備員が一人 落下した車の下敷きとなり病院に搬送されましたが 意識不明の重体との事です、詳しくはまた情報が入り次第 お伝えします…」
映像では ペシャンコに潰れたワゴン車が映し出されていた 三階からの落下で落下地点も悲惨な状況だ この繁華街で一人の犠牲者なら被害は少ない方である
「お前が血相を変えているようだが、もしかして…例の件と関係があるのか?」
滝本は確信を持って深見に尋ねた
「運転手が例の医療刑務所の出所者だ、それも出所後 今日で350日だ もう偶然じゃない!」
滝本が話し終わる前に深見が即答した
「報道では運転手の身元はまだ特定されていないが、こちらの捜査対象の人間だった 既に尾行も付けていたんだ…」
深見が続けた
「捜査員の目の前で起きた〝犯行〟だ、まだ所轄には話していない、しかしこのままでは運転手のブレーキとアクセルの踏み間違えの〝事故〟で処理されるだろう 状況は誰が見てもそう見えるそうだ」
「防ぎようはなかった…ということか…」
滝本は独り言のように言った
「捜査員たちも一瞬の出来事だったらしい、確実なのは 事故の直前に誰との接触もなかったという事だけだ」
事情知っている深見の部下たちの話だから間違いはない 彼らの目の前で〝実行〟されたのだ
「被害者は…」
滝本は今回の〝ターゲット〟となった人物が気になった
「報道では 意識不明の重体となっているが この電話の前に死亡が確認されたよ、被害者はこの駐車場の警備員で 川嶋 正弘 62歳 神奈川県警の元警察官だ、定年退職後の再就職先だったらしい」
そこまでは既に調べていた深見が応えた
「〝事故〟の内容からは 被害者との関連性は見当たらないか…」
滝本はまた独り言のように言った
「誰が見ても〝事故〟だからな…偶然としか映らないだろう」
深見も独り言のように応えた
「これが一連の事件と同じ 暗殺を目的とするなら 本当に完全犯罪だな」
と滝本が言った
「加害者は軽度な精神疾患だったから 運転免許も持っていた、ブレーキとアクセルの踏み間違えも最近じゃ珍しくないからな…どこからみても完全な〝事故〟になる」
過去の事件もこのように起きているなら 何の疑いも出てこないはずだ 絶対に暗殺など誰も気がつかない
暗殺計画進行中という言葉が二人の頭に浮かんだ
滝本と深見の通話は繋がっていたが いつまでも無言のままでいた

つづく