滝本たちの捜査は何の進展もないまま1ヶ月が経とうとしていた
被害者の関連性や殺害された理由もわからないままである
それどころか、捜査の過程で同様の事件がさらに数件見つかっていた 八方塞がりとなった深見が滝本を訪ねて来た 彼の部下の佐田も一緒だった
「佐田がお前に 話があるそうだ」
佐田は深見の部署に来る前は SPをしていた
「私が警護課にいた頃、二件ほど精神異常者に警護対象者が襲われた事がありました」
冷静な口調で佐田が話してきた
「加害者はそのまま それぞれ所轄に逮捕されましたが 後に不起訴で釈放されています」
滝本は 深見に目を向けて
「そいつらを調べたのか…」
ときいた
「ああ 二人ともその後、別の事件を起こして逮捕されている、それも二件とも今度は〝ターゲット〟は殺害されている 確実にな」
深見は思わせぶりな言い方をした
「別の〝ターゲット〟なのか」
と滝本はきいた 事件のつながりが思いつかないのだ
「まるで違う人間たちだ 最初の二件は 与党の幹事長と現役の大臣だった もちろんSPの対応だから二人とも無事だ、あとの二件で死亡が確認されたのが幼稚園の園長とタクシーの運転手だ、まったく繋がりは見つからない…」
と深見がいうと 佐田が資料を滝本に手渡した
渡された資料には 最初に襲われた政治家たちの経歴などが記されている 現在は二人とも政界を引退していた
「この二人は その後 襲われていないのか?」
と滝本が聞くと
「当時は 精神異常者の錯乱として処理されているから 動機や背後関係は探られていない、既にもう8年経っている、本人たちは悠々自適な隠居生活で 今もピンピンしているさ」
と深見は言った

暗殺計画だと考えると 最初の暗殺に失敗した後、ターゲットを変更して その後 二件とも暗殺は〝成功〟しているのだ 資料を読むとその後 犯人たちは 起訴されてはいないが 強制入院させられている

「暗殺者たちは、再利用されているということか?」
滝本が 二人に聞いた
「とても偶然とは思えないが、当時は偶然として処理されているはずだ、計画的などとは考えないからな」
深見が応えるのと同時に佐田が言う
「一連の事件は 全て精神異常者の犯行という事で一切 捜査がされていません、残っているのは 精神鑑定の資料だけです、検察もそれだけで処理しています、事件というよりは 事故のような扱いです」
これらが暗殺計画として本当に実行されているとしたら 完全犯罪になる 三人はこの計画を企だて〝闇の組織〟の存在を意識しないわけにはいかなくなっていた

つづく