「闇の暗殺組織? いったい どういうことですか 大葉さんは どこまで知っているんですか」
二人は職場が同じ頃から よく一緒に飲んでいた小料理屋の個室で事件の事を最初から話していた
「まあよく聞け、暗殺というのは 仮に完璧に行われたとしても 捜査上 必ず 動機や背後関係は徹底的に調べる、被害者の死亡によって〝誰が得をするか〟なども含めてな… しかし、この一連の事件は 責任能力のない精神異常者の犯行として犯人逮捕が先行したから それらは一切 調べられてはいないのが現状だ」
大葉は ここまで一気に話し コップのビールを飲み干した
「私も その可能性までは疑いましたが、これらの複数の事件、被害者には関連性が全くと言っていいほど見つからないのです」
滝本も隣に聞こえないよう 声のトーンを落として言った
「被害者同士には全く関連性はない、しかし、犯行はある組織が関わっているはずだ、実態は掴めてないがな」
大葉は 周りも気にせず声を張り上げる
「それが闇の暗殺組織とでもいうのですか?」
遅れてきた深見が襖を開けながら 話に入ってきた
「おう 深見、久しぶりだな」
「大葉さん、相変わらず 声が大きいですよ 廊下に筒抜けですよ 」
上着を脱ぎながら、深見は滝本と並んで座った
「こんな会話は ヒソヒソ話す方が怪しいんだよ…会話の途中で トムクルーズ とか007とかを挟んでいれば 映画の話にしか聞こえないよ…」
大葉は 昔からいつもこうだったと滝本は思い出した
「作戦コードの話は知っているな」
大葉が急に真剣な顔で話し出した
「not guilty…」
滝本、深見が同時に応えた
「そうだ、俺がまだ〝現役〟だったころに NSAから情報をもらったのと同じだ」
大葉の話に驚いた滝本は 深見に注いでいたビールをこぼした
「当時 米国や英国の要人がそれぞれ国外で〝無差別殺人〟で殺害される事件があった、当初はテロの疑いもあったが 犯人が現場で捕まり 精神異常者だった為 地元の警察はあまり捜査しないで事件を処理した…しかし後になってCIAやMi6がその事件に関して探っている事がわかったんだ」
大葉もこの内容は声を落として説明した
「その対象が〝闇の暗殺組織〟ということですか?」
「実態こそ 掴んじゃいないが 組織の存在は NSAも否定はしていない、国家安全保障の脅威のひとつとまで認識しているんだ」
ビールを一口喉に流し込み続けた
「米国の閣僚が ドイツの障害者施設の視察中に殺害された、という事件を覚えているか」
「ええ確か5年前に 次期大統領候補と噂のあった元副大統領ですね、障害福祉に力を入れていた彼が その関連施設で殺害されたと話題になってましたから」
「その事件の犯人、加害者が その施設の人間だ 護衛も気を許していたんだろう…一瞬のことだったそうだ、同じように英国も民間人だったが 訪問中の米国で精神異常者に刺されて殺害されている 犯人はどちらも錯乱状態だったといわれているが 二人とも〝正確〟にとどめを刺されている、それも特別な訓練を受けているような動きだったらしい 護衛の一人がそう口にしている」
「訓練された暗殺者かぁ…」
滝本は何かを考えながら呟いていた
「犯行はどちらも責任能力のない精神異常者、疾患者だ その後の取り調べもろくにできず 結果的に錯乱状態による通り魔事件として処理された」
「その事件を CIAが探っているとなると 〝組織的〟という疑いは現実的ですね」
深見が答えた
「あちらさんが お前のところに情報を入れてきたのも 日本の事件がそれらと関わっていたんだろうな 〝作戦コード not guilty 〟にな…」
「この一連の事件は 全て繋がっているんですか?」
滝本が 大葉にビールを注ぎながら聞いた
「少なくとも俺が辞める前から存在していたのは間違いない、記録にあるのは6年前からだが この手の事件は現場で処理されるからもれてるのもあるだろうな」
「NSAで把握されているのは国内、国外あわせて8件の事件らしいです、日本も多分そのくらいはあるでしょう…」
全て犯人が捕まっているから どれも事件は早期に処理されてしまっている
三人はそう感じながら これからどうしてこの事件を探るかを話し合った

つづく