「このメンバーが揃うのは何年ぶりだい?」
久しぶりにランニングウェアに着替えた
滝本は、懐かしさを込めてそう口にした

内閣情報調査室 滝本 真吾
警察庁警備局 深見 陽一
警察庁外事課 野山 章

この三人は 大学も同期で警察庁入庁も同期だ
それぞれ海外も含め 各所に異動していたが
ようやく現在の部署で落ち着いている

最高学府に在学していた彼らは四年間
箱根駅伝を目指し学業を放り出して
走り続けていたが一度も出場できなかった
卒業後もそれぞれ走ることはやめなかったが
30を過ぎた頃から〝ジョギング〟と呼ばれる
のが嫌で〝走り〟からは遠ざかっていた

「あの資料は、どんな意味があるんだ?」
滝本が、発信元である深見に尋ねた
同じものが 野山にも送られていたので
野山も準備運動をとめて近づいてきた

「少し、走りながら話そうや…」
そう言いながら 深見がゆっくりと走り出した
「おい、おい、待てよ 準備運動しっかり
    やらなきゃ もう若くはないんだぞ〜」
大学時代から準備運動に煩い野山が
嘆きながら 二人に続いた

「あの事件の加害者が 全員 精神異常者と
    鑑定されたのはわかっているな」
深見が メールの詳細を話し出した
週末の夕方というのもあり皇居周辺は
ランナーがいつもより多く走っている
時々 周囲に目を配りながら話し続ける
「不思議な偶然の一致なのか、その加害者が
    以前 同じ医療刑務所を出所しているんだ」
「医療刑務所自体 日本に数カ所だろ 同じ場所に収容されても不思議ではないはずだが」
滝本は 深見が言うほど疑問を感じてはいない
「しかし、彼らは 万引きや無銭飲食の常習犯で服役していたんだ、過去には傷害事件など一切犯していない むしろ温順しい受刑者だったそうだ」
「治療やカウンセリングを受けているはずだから本来なら、症状は改善しているはずだな」
滝本もそこは、少し変だと感じた
「改善どころか、皆、凶暴化しているよ」
詳細な情報も調べているらしい深見は ハッキリとそう口にした
「凶暴化しての それぞれの事件なのか?」
道が広くなってきたタイミングで野山が並走しながら質問する
「出所の時期はバラバラだが、どいつも出所後、ほぼ一年後、正確に言うと350日後だ」
ようやく本題に入るらしく 深見の具体的な説明が始まった
「その関係性にいつ気がついたんだ?」
滝本が 深見の説明に口を挟んだ
深見は (ゼロナナ)と呼ばれる 警察庁 総合情報分析室に所属はしているが〝分析〟は大の苦手なはずだ
「ラングレーから調査依頼が来たんだよ」
機嫌悪そうに深見が応えた
「CIAが 尋ねてくるネタにしては 随分変わった内容だな、何か理由でも伝えてきたか?」
「やつらは、そんな事 説明なんてしないさ、仮にしたとしても それらしい言葉を並べたデタラメばかりだよ、まあ 上はそれでも納得するがね」

「少しきな臭くなってきたな、走りながらする話ではなくなってきたから どこかで じっくり話さないか」
一日中デスクワークの三人は 互いの体力の低下を認めながら 一周もできず皇居を後にした

つづく