「神崎、今日から釈前教育だから 準備しろ」
朝の配食作業終了と同時に処遇主任から
〝釈前引込み〟の告知があった

酒井が 走り寄って握手を交わしてきた
「神崎さん、お元気で…」
最後まで気持ちのいい奴だ
神崎は酒井の手をしっかり握りしめ
「大変だが、お前も後2年 しっかり頑張れよ」
酒井のお陰で この棟の作業も随分ストレスが
軽減されていた

別れは名残惜しいが 連行の職員が待っている
神崎は、身の回りのものをまとめだした

仮釈部屋に移ると既に〝仮釈用〟の
布団一式が用意されていた
本日の引込みは 三名だ

中に入ると驚くことに 同室だった嶋がいる
彼とは 新入教育も一緒だった
「神崎さんとは入所も出所も同じですね」
嶋が笑顔で語りかけてくる
「最後は気の合う仲間でよかったよ」
神崎も心からそう思っていた

仮釈の釈前教育に入ると この釈前部屋で
2週間の教育が行われる
教育といっても数時間程度の担当者との
面談が主で 出所への不安などを相談する
あとは 毎日のビデオ視聴が日課である
引込みの日に 日記を渡され出所まで
毎日書かなければならないのが大変だ

神崎にとって
配食作業、洗濯作業、汚物掃除などから
解放されて 上げ膳据え膳な状態が
逆に居心地がよくなかった

テレビ視聴の内容は
履歴書、経歴書の書き方
正しい面接の対応、社会人としてのマナー
などの教育ビデオばかりだが
映画鑑賞の時間も中には含まれる
映画は〝泣ける〟内容の作品ばかりで
涙脆くなっている受刑者にとっては
〝号泣〟してしまう映画ばかりを選んでいる

ずっと、ペラペラな布団で寝ていたため
ふかふかな布団に入るとなかなか眠れない

ここで 2週間かけて社会へ戻るため
少しずつ〝自然解凍〟していくのだ

釈前教育…
喜びと不安が交錯する初日となった

つづく