「神崎さん、控訴して争いましょう」
正義感の強い若い弁護士は  
今日も面会で控訴を勧めてくる
「検察側の証拠の検証の曖昧さはとても
    納得できるものではないですよ」
検察の想定した理不尽な筋書きは
誰が見ても そう感じるものだった
「しかし、裁判官はみんな一緒だって
 〝此処〟の経験者たちが言ってたよ」
神崎は 裁判官自体に 公平な判断など
できるはずがないと諦めていた
「これ以上、時間を無駄にしたくないから」
神崎はもう覚悟していた
「こんな冤罪 赦せません」
若い弁護士は 悔しさを露わにしている
「一日も早く出て 自分の手で解決する」
神崎の言葉を真剣な眼差しで聞いていた彼は 
その不満を押し殺し面会室から出て行った

神崎の三年の刑が確定した
未決勾留が一年ほど 差し引かれるので
彼の残刑期は 二年を切っている
二審で長引かせるより出ることが優先だ

「211番 神崎 移動するから準備しろ」
担当の刑務官の指示に従って身の回りの物を
整理し、刑務所に移される

「神崎達也 今日から番号が変わるからな」
「衣類を全部着替えろ 私物は所持できない
    確定後 刑務所で使用できないものは全て
    領置するから 振り分けするように…」
事務的な流れ作業で受刑者と変わっていく

刑務所に一度入れば
神崎はもう「冤罪」などという言葉は
口にしないと心に誓った
何も知らない第三者が聞いても
〝負け犬の遠吠え〟にしか聞こえない

出所の日までは ひたすら我慢だ
いつか 自分の手で無実を晴らすまでは…

神崎の刑が終わるまで あと665日

つづく