刑務所では体調が悪い場合
〝横臥〟を申請すると医務から許可があれば
終日、布団を敷いて横になることができる

この医療刑務所では 体調不良の他に
幻覚、幻聴などがひどい場合も許可がおりる
精神病薬が処方されているが
普段より安定していない場合は横臥となる

逆に仮病をつかい単にサボりたい者もいる
しかし、実際 幻覚、幻聴は本人しか
判らないためサボり癖のある者は
頻繁に横臥を申し込んでくる

神崎の棟にも もう2週間以上も
横臥を続けている受刑者がいる

「あいつ、めちゃくちゃ元気っすよ」
「メシは、毎回完食 今も体操してますよ」
酒井が呆れ果てて愚痴をこぼす

1025番の沢木は とても厄介な受刑者だ
平常時は真面目で温厚な男だが
一度豹変すると手がつけられない
ベテランの刑務官も沢木の豹変スイッチが
どこなのかがわからないくらいだ

豹変期間も長くなると保護室に
1週間近く監禁されることもある
とても悪賢い奴だ

神崎の棟には 平日の就業中に体調を崩し
横臥に来る者の為に横臥用の居室がある
しかし、ほとんどここで横臥するのは
他工場の〝常連組〟ばかりだ
布団などを準備し、食事も手配する

新入や調査、懲罰の預かりも重なると
満員御礼となる 
シーズン中のペンション並みかもしれない

横臥を続ける者にとって 刑務所は
『 三食昼寝付き 』の居心地だ

朝食から 夕食まで ビッシリ働いて
日当報奨金 100円程度の神崎にとって
考えたくない現実が 此処にはある

つづく