出所が近づく神崎にとって不安なことがある
それは〝前科の烙印〟である

これから社会で暮らしていく間
ずっとつきまとう〝前科〟の事を
真剣に考えてしまう

仕事の関係で 新聞に載ることも
少なくなかった神崎にとって
事件の報道のダメージは計り知れない

最近では ネット上にも長期間
その情報が残ると聞いたことがある

〝前科者〟 …
多くの社会的な肩書きを持っていた
神崎に それが加わった

社会的立場、財産、家族、信用を失い
〝前科〟を手に入れてしまった
無実を訴えていようが、刑務所に入れば
公には 立派な 前科者になる

神崎個人としては 何も後ろめたさはないが
息子の将来を考えるとそうはいかない

息子の就職、結婚 
孫の就職、結婚にも 影響しないだろうか
そんな先のことばかり心配してしまう

大都会に移り住む事を選べば
〝紛れこめる〟から バレることはない
興信所にでも調べられなければ
判らないはずだ

仮釈放の目処がついてから
喜びより 不安ばかりが襲ってくる
刑務所に入って 一旦 空っぽになった
神崎達也という容れ物に いったい
これから何を詰め込んで行けばよいのか
真剣に考えなければならない時だ

此処から 出す手紙に
「この経験を必ず糧にする…」と書いてきたが
実際、何が糧になるのだろうか
(何も 糧にはなっていない)
(前科など糧になるはずがない)
そう感じるようになってきた

もっと無様な自分が頭に浮かぶ
恥を晒して生きていく自分が頭に浮かぶ

唯一の救いは
大切な人達が待ってくれるという事

待ってくれている人は 自分の何を
待ってくれているのだろう

「出所したら◯◯が食べたい」
「出所したら◯◯がしたい」
という楽しげな会話を聞きながら
悩みはより深くなってくる神崎だった

つづく