刑務所の受刑者が一番幸せを感じるものの
ひとつが〝娑婆からの手紙〟である

待ってくれている 大切な人からの手紙は
刑務所での
寂しさ、虚しさ、侘しさ、惨めさなどの
悲しい気持ちを癒してくれる
手紙が届くのは、目に見えない優越感がある
社会と繋がっていると感じられる
唯一のカタチでもある

神崎にも 独り暮らしの母親から手紙が届く
筆不精な母親から毎月送られている
神崎も 毎週のように出している

こんなに母親とコミュニケーションを
取る事など 生まれて初めてかもしれない
働いていた時代は、電話ですら
年に数回だったかもしれないのだ

父親を病気で亡くしてから ずっと
寂しい思いをさせていたが今もまた
刑務所にいるという現実がある

届く手紙には、彼の体調のことを
心配する内容ばかりだ
彼のせいで 大変なはずなのに
愚痴ひとつ書かれていない
もともと気丈な女性である
今でも神崎の無実を信じてくれている

同室でも 外からの手紙を読んで
隠れて涙を浮かべている者もいる

メール社会だが
自分の気持ち、心を
自分の手書き文字で
便箋に綴っていく
どんなに拙い文章でも 心を込めて書く

多分、相手も同じ気持ちで
手紙を出してくれているはずだ

刑務所の生活で最も〝神聖〟な時間だ

〝娑婆からの手紙〟
それは 夢、希望、生き甲斐になる

つづく