刑務所から出す手紙を 皆 苦労して書く
何度も 何度も下書きをして書く者もいる

自分の今の気持ちをどのように
〝文章〟で伝えるかに悪戦苦闘する
メールとは異なり 手書きは漢字も苦戦する

国語辞書を片手に汗を掻く
「神崎さん、今、良いですか?」
普段、文章を書き慣れていない嶋が
下書きを持って相談する
休日の一コマだ

「気持ちは 痛いほど〝わかります〟の
    わかりますは、〝解る〟〝判る〟〝分かる〟
    どれを使えば良いですか?」
「反省しています より もっと深く反省してる
    と伝える 何か良い書き方ありますか?」
刑務所からの手紙はとても真剣に考える

中には、親や知人に 差入れの催促ばかり
している者もいるが、やはり…
〝待たせている〟〝待ってくれている〟
人がいる受刑者は 『心を込めて』手紙を書く

それぞれの想いが痛いほどわかるから
神崎もいい加減なアドバイスはできない

以前、移送待ちの刑務所で同室の人間から
「今回、迷惑かけた職場の親方宛に
    どうしてもお詫びの手紙を出したいが
    自分の気持ちを文章で表せない」
と頼まれ 彼の想いを代筆した事がある
その後 その手紙を読んだ 親方が面会に
来てくれ、涙を流して喜んでくれたらしい
彼からの手紙を「宝物にする」とも言って
くれた というエピソードがある
代筆だろうが、内容は間違いなく彼の想いだ

それだけ 刑務所からの手紙は 
本当の気持ちを写し出すものだ

お詫びや感謝の気持ちが
記憶だけでなく、記録にも残る
社会に戻って 記憶が薄れても
手紙が その〝時間〟を思い出させてくれる

外で受け取ってくれる人の事を
頭に描いて、瞼に焼き付けて
暮らすのが 刑務所でもある

便箋3枚を綴っていくだけでも
何時間もかかる 下書きする者は
何日間も時間を費やしている

刑務所からの手紙 、刑務所への手紙
受刑者にとっては かけがえのない
大切な〝絆〟なのである

つづく