「てめぇ、何様のつもりだ〜」
「お前は、俺を舐めてるのかぁ〜」
「このまま タダで済むと思うなよ」

娑婆のチンピラのセリフのようだが
此処では 頻繁に耳にするセリフである
若い刑務官が よく口にする言葉だ

受刑者は 何を言われても、悪くなくても
ジッと我慢するしかない
暴力こそ振るわれないが身に染みる
ほとんど受刑者を相手にしたストレス解消だ

相手が理解できない障害受刑者になると
テレビだと〝ピー〟が入るような
禁止用語も平気で口にする刑務官もいる

少し年配の熊澤がそうである
神崎も 一度 軟食対象者に 間違えて
通常食を配食してしまった時には
「お前は、殺すつもりかぁ〜」
延々と〝人殺し〟呼ばわれされた

神崎は この熊澤が 障害受刑者を
揶揄っているのを何度も目撃している
本当に タチの悪い刑務官だ

熊澤は 何かにつけて
「お前の仮釈放取り消すことなど簡単だ」
と経理受刑者を脅してくる
神崎も言われたことがある
誰も この熊澤には逆らえない
同僚たちも煙たがる 傍若無人な奴だ

受刑者のことを 中世時代の奴隷としか
扱っていないように思える
自分に媚びてくる受刑者には甘い

江戸時代なら 水戸黄門に成敗される
〝悪代官〟そのものだ 

慣れないものばかりの初犯刑務所だから
その横暴さも拍車がかかる

刑務所とは こういう面でも
社会で最低の場所なのかもしれないと
神崎は改めてそう感じた

つづく