「どうしたんだ?朝から何かあったのか」
酒井が珍しく朝から職員に説教されていた

「ちんころ されたんすよ」
明らかにバツが悪そうだ
「洗濯の奴に こっそり、枕カバー新品に
    交換頼んだのが バレてたんです」
以前から〝ハズレ〟の汚い枕カバーの話は
聞いていたが、それの事らしい
洗濯工場で管理しているので頼んでいたのだ

「新品と交換する時、横地の奴が
    見てたようで そのまま ちんころっすよ」
なんとか今回は 注意で済んだらしく
イエローカード一枚という事だ

横地は、点数稼ぎで有名な嫌われ者である
探し出してまで 告げ口する為
周りからは 〝ちんころ野郎〟と軽蔑されている

人気者の酒井とは特に仲が悪いが
対象が誰であろうと構わないようだ

職員への報告は 悪い事ではないが
どうも都合の良い 〝脚色〟をするようだ

「自分は、注意したんですが…」
「私は 不正が許せないんです…」
と平気で 嘘もつくらしい

そんな横地自身も隠れて結構 執拗に
新人イジメをしているのを見かけた事がある

神崎とは天敵の大林職員の手下でもある
神崎も実害は無いが 何度かちんころされた

「あの ちんころ野郎、痛い目に合わせる
    方法は ないもんですかね〜」
怒りのおさまらない酒井は、嘆いている

「やめとけ、大林がからんでくるぞ」
下手に横地にしかけて 大林に利用されては
元も子もない
「彼奴の悪評もそろそろ処遇の耳に
    入る頃だろうから 今回は我慢しておけ」
そろそろ イジメられている新人が
反逆の〝ちんころ〟するはずだ

刑務所は とても狭い世界だ
告げ口もちんころも そして嘘も
すぐバレる

服役中は、とにかく
他人に関わらない事が 一番安全なのだ

つづく