「神崎さん、筆箱ってどんなやつですか?」
報奨金がようやく貯まった 酒井が聞いてきた

此処では、月に一回 私物購入ができる為
その申し込み用紙を眺めながらである

「筆箱はやめておけ、百均レベルの商品で
    500円は 取られるよ」
神崎は持っているが、酒井にあげたいくらいだ
もちろん物品授受は 懲罰になってしまう

「ほとんど官物で大丈夫だから シャンプー
    くらいで いいんじゃないか」
衣類だけでなく 歯磨き、タオル、ちり紙
石鹸の類いは 全て官物でまかなえる

シャンプーだけは、私物がいるが あとは
手紙を書く為の便箋、封筒、切手くらいだ

無一文で服役してきた酒井も
僅かながら報奨金が貯まったのが嬉しいらしい

基本、坊主頭だからシャンプーも
要らないと言えば 要らないかもしれない

価格表を見ても 消耗品はほとんど
百均レベルの商品ばかりだが
しっかり〝定価?〟で売っている

全国の刑務所一律ならば
相当 儲かっているはずだ
Amazonも楽天も敵ではない

雑誌や書籍類の購入もできる
週刊誌類は 基本 1ヶ月分申し込みとなる
やはり〝エロ本系〟の人気は高い

他の刑務所からの移送組に聞くと
エロ本禁止になった刑務所もあるらしい
時代なのかもしれない

刑務所で貸し出されている 官本は
あらゆる分野のものがあり充実している
もちろん エロ本はない

哲学、経済、化学から 小説や漫画もある
中でも コミック漫画の人気が高い
ほとんどが シリーズ全巻揃っている

官本を選ぶ順番で 揉めることも少なくない
シリーズの続きを 先に借りられたりすると
次に回ってくるのが、一年後になるからだ

官本にない、読みたい本は 月に一回
自分で購入することができる
差し入れの場合、 本はいつでも入る

神崎も普段から読書は好きだったので
逮捕以降、大量の専門書や小説を読んだ
〝時間だけは 豊富にある〟
晴耕雨読とまではいかないが
読書家には 恵まれた環境かもしれない

国際情勢や諜報活動分野の好きな神崎は
大好きな トム・クランシー著書の
ほとんどを読破していた

「ベビーパウダーだけ、買うことにしました」
ようやく決まったようだ

刑務所の夏は ベビーパウダーは必需品だ
汗対策で これが無いと同室者に顰蹙をかう
ひと夏で 2パック使う奴もいる

(今夜も寝苦しい夜になりそうだ
    ベビーパウダーの香りに塗れて寝るか)
刑務所で手に入る 唯一のフレグランスが
最近、大好きな神崎だった

つづく