神崎は ここに来て 様々な受刑者の
〝失敗人生話〟を聞いてきた

障害を持つ受刑者ではない彼らは
常にやりなおそうと 努力している

刑務所に入るまでも失敗を繰り返してきた
家庭、学歴、差別、LGBT、人間関係
依存症、貧困、イジメ問題 原因は様々だ

それぞれ 失敗を繰り返さないように
各々、努力も怠らなかったはずだ
それでも 同じ失敗を繰り返してきたそうだ

話を聞いているうちに
神崎には 素朴な疑問が湧き上がってきた

それは…
『違う結果を求めて
    同じことを繰り返している』
と感じたのだ

次こそ そうならない為にと気をつけていても
結果的に 同じことを繰り返しているからだ
意識は 違う結果を目指していても
根本的な行動が変わらない為
いつも同じ結果に結びついてしまっている

生活が苦しいから 万引きをする
生活が苦しくなければ しない
だから 生活保護申請をする
結果的に 門前払いをされて
また、万引きで生活をしてしまう
〝働きたくない〟は同じである

パチンコで借金が膨らんだ
借金を減らす為に
1円パチンコで我慢するようにした
しかし、借金が少しも減らない
〝ギャンブル依存症〟は変わらない

皆、意識では努力して良い結果を求める
しかし、行動は同じことを繰り返している

他人からは よく判るのだが
本人は それに気づかない

負のスパイラルとはそのようなもの
かもしれない

個人だけではない
企業という組織も同じである
違った目標を掲げ、結果を求めて
結果的に同じことしかやっていない
何も変わっていないのである

失敗は 成功の… になっていないのだ

警察や検察は 被疑者に対して
『動機』を探ってくる
しかし、決定的な動機など
そうあるものではない

本人もわからないまま
〝いつのまにか…〟になっているのだ

同情はできないが 一方的に非難もできない
神崎の人間観が大きく変わっていた

つづく