職員の会話に聞き耳立てていた酒井が言う
「観察室に 誰か入るらしいっす」

観察室というのは 主に体調を崩した者を
文字通り〝観察〟する為に入れる部屋だ
冷暖房完備で監視カメラも付いている

「誰が入るんだ?」
神崎が聞くと 酒井は急に小声になって
「懲役20年 極悪殺人者の1239番ですよ」
といつもより強調して伝えてくる

「おいおい その言い方はやめろ!
    誰が聞いているか わからないぞ」
神崎はいつも注意するが 1239番とは
地元が同じで 彼の報道は衝撃的だったようだ

通りすがりの幼児を殺害し公判でも
証人を殴るなど大暴れしたようだ
神崎自身も薄っすらって記憶がある
地元では連日報道されていたようで
酒井は 細かな事までしっかり覚えている

「最近、あいつの眼 変でしたから…」
そういえば 眼だけでなく 急激に痩せた様に
感じていた

そこへ 話題の異星人が車椅子で運ばれてきた
「随分、やつれてますね…」
顔もげっそりとして眼にも力がない

世間の人間は、世間を騒がせた犯罪者が
〝こんなところ〟でこんな風にいるとは
考えたこともないだろう
世間の人間が忘れた頃に 満期が来る
そうなれば 異星人とて社会に戻る
若い彼には まだ十分〝寿命〟が残される

命を絶たれた 被害者の幼児の親たちは
ずっと地獄が続いているはずだ

犯罪報道は 劣化してしまうが
現実的に 凶悪犯は 生き続けている
病気なのか?障害なのか?
完全に治るわけなどない

神崎は、大切な人たちがいる社会には
戻して欲しくない と強く思ってしまう

前を通り過ぎる時
異星人が不気味な笑みを観せた
神崎たちは ゾッとしながら その後ろ姿を
いつまでも みつめていた

つづく