「結果的に 食っていく為に また窃盗です」
嶋が愚痴っぽく話している
日曜の午後 皆で出所後の苦労話をしていた

「観察所の紹介で ちゃんと働き出したんです」
前回の執行猶予判決後 前科者を世話する
〝協力会社〟に就職した話だった
「初めての仕事だったんで 一生懸命 俺なりに
    頑張ったんですけど…」
会社の他の社員たちから 酷いイジメに
あったとのことだ
無視や陰口で散々な目にあって 結果的に
それに耐えられなかったのだ

社長は慈善事業のつもりだが
社員にとっては 〝厄介者〟でしかない
「役立たずが入って迷惑だ…」
周りは皆そう口にする

いたたまれなかったのだろう
「会社を辞めても その繰り返し」
「生活する為 一時的にと生活保護相談しても
   〝働け!〟の一言で 門前払いですよ」
生きるための 盗みを正当化するわけでは
ないが、わからないわけでもない

無論、刑務所帰り 前科者は 蔑視 中傷から
逃げる事は出来ない
どんなに反省しても 一生ついてくる

最近では テレビに平気で出ている
IT会社の元社長や元政治家、大企業の元会長
のような刑務所〝経験者〟もいるが
全ての出所者が市民権を得ているわけではない

「学歴も住む所もなきゃ 限界ありますよ」
愚痴をこぼす嶋は 手に職はしっかりある

神崎と違って とても器用に何でもこなす
此処では学歴など全く役に立たない

配管や大工仕事、園芸、草刈り、塗装など
何でもこいだ 羨ましい
パソコンと携帯ぐらいしか触っていない
神崎は パンツのゴム交換やボタン付けも
悪戦苦闘している

コーヒーを淹れるのも コピーをとるのも
秘書に任せてたくらいだ
まるっきり〝潰しが効かない〟

嶋の愚痴から 現実が垣間見れる
社会の厳しさを痛いほど感じている彼の
言葉から〝差別社会〟を考えてしまう

(しかし、俺にとっても他人事でないな)
自分にとっても出所後は未知の世界だ
復職できなければ それが現実になる

〝前科者〟この言葉を背負っていく
自信は 神崎にはまだなかった

つづく