刑務所には イジメも少なくない
しかし、ほとんどのイジメは 表沙汰には
ならない、見えないからだ

〝見えない〟イジメは巧みで卑劣だ
監視の世界で それが行われているから
技術的にも、性格的にも緻密である

他人の嫌だと感じる事を十分把握している
他人が不快に感じる事を十分理解している
自然に、その雰囲気をつくりだす

経験のない職員は見抜けないだけでなく
逆に そのイジメに利用されてしまう
ターゲットを悪者にしてしまうからだ

刑務所は、暴力は絶対にダメだが
言葉の暴力、雰囲気の暴力は
〝見えない〟〝見つからない〟

殴られたり、蹴られたりするより
ダメージが大きく 深い

神崎も身近で感じることが少なくない
あまり度が過ぎていれば 止めに入るが
神崎にも〝見えない〟イジメもある

刑務所は、絶対的な『弱い者イジメ』だ
力の差が明らかな イジメばかりだ
社会とは比べ物にならないくらい
その『陰湿さ』は異常なものだ

食事も医療も無料で
自由は無くとも不自由もない
そんな刑務所の唯一の闇が(病みが)
〝見えないイジメ〟かもしれない

「神崎さん、今度のターゲットは 洗濯の
    野山らしいっすよ、可哀想に…」
相変わらず情報通の酒井が 
次の〝生贄〟の話題を運んできた

(またまた典型的な 弱い者イジメだな)
神崎は 呆れながら 酒井の話に耳を傾けた

つづく