神崎は、様々な分野に人脈を広げていた
仕事上のコミュニケーションがほとんどだが
損得勘定というより 純粋に仲が良かった

逮捕後、神崎は〝こちら側〟の世界とは
見えない壁を設けていたが
接しているうちに 自然と仲が良くなった
〝人間〟としては 皆、いい奴ばかりだ
根っからの悪人などそういない

むしろビジネスの世界の方が
合法的であっても 〝悪人〟ばかりだ
他人を貶め、脚を引っ張ることなど
日常茶飯事の出来事だ

拘置所で とても仲が良くなった同輩がいる
その筋の親分さんだ
彼らは 〝性格的〟に司法を嫌うが
神崎の〝論理的〟に司法を嫌う姿が
とても新鮮であり感心をもっていた

半年近く一緒だったので
彼の移送が近づいた ある日
親分の〝組〟が関わっている企業の
コンサルティングを頼まれた
神崎にとっては魅力的な報酬の提示も
具体的に用意されていた

(どうせ表舞台には もう立てないから
    この世界も悪くない…)
その時は 神崎自身もそう考えたくらいだった

此処に移送されてからも 何度か便りが届いた
しかし、刑務所というところは
〝その筋〟からの便りは 本人に届かない
着信の告知はされるが 手元には届かない
出所まで 領置されたままになる

神崎も 仮釈の手続きの面接の時に
その手の便りは 『開封せずに廃棄する』と
やんわりと強要された

その筋との、また受刑者同士の関係を
徹底的に断つことを目的としている

出所後に関係を持つことは
全面的に『ダークサイド』だとの解釈だ

神崎が親しくなった その筋の人間は
両手で数えるほどいる
彼らからの差し入れも全て入らない

人間としては 本当にいい奴ばかりで
愛すべき純粋な漢たちばかりだった

この世界は 規則やルールが
『差別』をつくりあげている

(だから、嫌いなんだよ)
神崎も 〝性格的〟に司法が嫌いになっていた

つづく