神崎の棟では 室内作業として各居室内で
金魚袋をつくっている
ビニールの袋に一つ一つ 紐を通す手作業だ

単純作業だが 根気のいる作業でもある
機械化の容易ではない作業の為
ほぼ一年を通して受注している
発注側の企業も社会貢献の一環なのか
厳しい納期は要求されない

受刑者の〝技能?〟に応じて
材料が変わるが
真面目で 手の器用なものは
成果品まで任す事ができている

懲罰中でない限り、就業は必須だ

もちろん 正常な状態でない受刑者にも
何らかの作業は必要な為
材料の数や状態のチェックは欠かせない

あとは、黙々と袋に紐を通すだけだ
小さな袋と短い紐だけなので危険はない

此処では『安全性』が 何より優先される

〝怪我〟は 受刑者には禁物だ

〝怪我〟が判明すると徹底的にその原因を
あらゆる角度で検証される

経理受刑者が その一因となると
ただでは済まされない 
懲罰対象となる場合もある

それが面倒で 隠す者、誤魔化す者もでる

「12室と16室、材料切れてるぞ!」
交代の職員が通路で叫んでいる

「はい、わかりました 今すぐ入れます」
材料入れ、説明は 神崎の仕事でもある

慣れている神崎は何室の誰が それぞれ
どのくらいの技能なのか だけでなく
それぞれの〝症状〟も把握できている

正常でない時には、注意が必要だからだ
貴重な材料を極力 無駄にはできない
金魚袋に お菜を隠す者もいたりする

袋が何枚、紐が何本
回収時もしっかり確認がいる

「神崎さん、紐の残量が厳しいっす」
酒井が 材料箱を覗きながら呼んでいる

「今月は、満室だったから数が進んだな」
懲罰の調査で棟の人員が増えた今月は
作業量がいつもより多いのだ

「金魚袋、三箱は出荷できるな…」
細かな契約単価まではわからないが
中国やベトナムより人件費は安いはずだ

ちなみに 神崎の月給(報奨金)は
今月で ようやく5000円を超えた

配食当番もやっているので
土日も祝日も休みはない
多分 時給に換算すると数十円だろう
しかし 神崎にとって あまり関心ごとではない

他の刑務所なら 家具や工業製品も作るから
もう少しは良いのだろうが…

ここは、〝普通〟刑務所ではない

つづく