「今日は 特別暑いっすねぇ〜」
酒井は 昼休み明けからずっと汗ダクだ
「明日から 夏季処遇で ランニングだからな」
此処では、夏の間は 
丸首シャツから ランニングシャツに変わる
就業時間、点呼時以外は
ランニング一枚で過ごしても良いのだ

「しかし、入所した頃は、この歳で
    半袖 半パンになるとは思わなかったな」
50を超えた神崎はそうこぼした
刑務所の夏服は全員そうである

寝具はタオルケットに変更だ

処遇変更のたびに 神崎の担当の棟では
神崎たちが 全ての居室を入れ替える

既に配布する衣類やタオルケットには
受刑者の番号が印字されている
これに〝当たり、ハズレ〟があるのだ

比較的 新しく綺麗なものが 当たり
相当 使い古した 黄ばみが有るのがハズレだ

毎回、これで不満が出る為
神崎たちの配布作業は大変だ

分別している 洗濯係も意図的ではないが
不思議とハズレが固まる者もいる

「神崎さ〜ん、俺のタオルケット
    五年前の年代ですよ〜嫌だなぁ」
酒井が 愚痴りだす

「同室だった斎藤の毛布なんて
    平成10年だったぞ、ほぼ20年ものだ」
ウイスキーなら価値ある年代モノでも
毛布が20年ものでは 気持ちが悪いだけだ
神崎は5年なら まあまあだなと思った

領置金に余裕があったり差し入れがあれば
自分用を規定枚数まで購入はできる
不思議にこの刑務所は 色は自由だ
ピンクや紫もいる

「明日から 夏の処遇なので、明日から
    これに着替えてくださいね〜
    掛布団回収してタオルケット入れます」
酒井が、丁寧にひとりひとり案内する

「うちわの配布も忘れるなよ〜」
此処での夏の必需品 うちわも配布だった

神崎は両手に20人分のうちわを持って
酒井の後を追った

つづく