この刑務所には薬物中毒者少なくない
薬(シャブ」やる前は
全くの普通の一般人ばかりだ
遊びや快楽が目的ではないのだ

1358番 原田から神崎は身の上話を聞いた
配食や洗濯回収の時に こっそり話している
安定剤が効いている時は 普通に会話ができる

自分の店を持とうと必死でコックとして
五つ年下の奥さんと働いていたそうだ
ある日突然、奥さんが若い男と失踪…
裏切られた絶望感と目標を失った彼は
極度の鬱状態となり薬に逃げるようになった
そして自らの精神をコントロールできずに
暴力沙汰を繰り返すようになった

それでも何度か 立ち直ろうと努力したが
薬がいつもそれを邪魔したようだ

此処にいる間は、処方される〝合法〟な薬で
なんとか自分をコントロールできる

しかし、薬漬けで身体はボロボロだ
彼はもう少しで釈放をむかえる

社会に戻れば、また自分で努力して
いかなければならなくなる

彼が、そっと呟く
「娑婆に戻るのが 怖い…」
「今度、此処に来る時は もっと恐ろしい事が
    起こっているかもしれない」
彼には、家族がいる 彼は これ以上
家族に負担や迷惑をかけたくないから
「確実に自殺したい」
と神崎に相談して来る

彼は、以前 ビルから飛び降りて
幸運にも いや彼にとっては〝不運〟にも
助かってしまったようだ
足が不自由になるという さらなる不運を
手に入れてしまった

正気な精神を残した 障害受刑者は
苦しみ続けなければいけない

そうでなければ、悩みや苦しみは感じにくい

神崎は、此処にきて それを強く感じていた

「生きてさえ入れば 良いこともあるさ」
と無責任な言葉を口にしてしまうが
彼にとっては
その言葉が 一番 酷な応えだということは
神崎も痛いほどわかっている

ここは、精神(こころ)の監獄なのだ


つづく