刑務所では 手紙を書くことが多い
メールや電話ができないため
唯一の娑婆との連絡手段だ

日頃、読書しない者でも
国語辞典や手紙の書き方などは人気だ

しかし、普通に生活してきた者にとって
〝手紙を書く〟という作業は
思っている以上に重労働だ

形式こそマニュアルはあるが
自分の気持ちを文章にするのは至難の技だ

若い者は文中に当たり前のように
手描きの絵文字を入れたりする
メール文化しか知らない人間には大変だ

神崎は日頃から同室の人間に 
漢字や文章のアドバイスをしている
周囲も彼の文才、筆心を知るにつけ
真面目に送りたい相手への相談をする

お詫びの手紙や感謝の手紙
中には 別れた妻や勘当された両親への
手紙など複雑?なものも相談される

加害者は逮捕され、その流れで服役となる
しかし、
その家族は報道されたりするものなら
その日から 非難や蔑み中で
暮らさなければならない
逮捕された本人より社会で地獄を見る

塀の中で 自由を奪われるより
自由を奪われているのかもしれない

それらを全て認識して中の人間は
考えていかなければならない

もちろん被害者に対しても
軽はずみに〝反省〟などという単語で
終わらせてはいけない

神崎は 無罪を主張した裁判を2年以上
戦っている間
留置所、拘置所、刑務所と多くの加害者と
接してきている
社会では見ること 関わることがない
多くの人生を手紙を教える過程で
学ぶことができた

この世界、この社会にある全ての問題を
考えることができた時間でもあった

便箋に向かって 筆をもった時に
何を伝えたいか?
想いはハッキリしているが文字にならない

しかし、本当に想いはハッキリしている
みんな良い奴ばかりだ

「神崎さん、すみません…
    捕まる前から迷惑をかけた親方に手紙を…」
申し訳なさそうに 同部屋の嶋が近づいてくる

今までに 一通の手紙で互いの人生が変わる
そんな瞬間も観てきた神崎にとって
手紙のアドバイスは決して手が抜けない

文章くらいで役立つなら
これも立派な社会貢献のひとつなはずだ

つづく