「神崎〜 神崎〜 」
朝から 警備隊の怒鳴り声だ
「6号室から ストロー出てきたぞ!
    また 回収忘れだ 気をつけろ‼︎」

朝から 室内検査があったらしく
昨日の昼食に出た 紙パックのストローを
室内に隠し持っていたようだ

ここでの配食、空下げは
配食したものは 全て回収するのが規則だ
紙パック、ストロー、醤油やソースの袋
納豆の付属の辛子は特に要注意だ
ストローの袋が破れて残っていても
注意の対象となる
朝食の海苔は 毎朝 確認が大変だ

他の受刑者は メニューを見て楽しんでるが
神崎にとっては 〝おまけ〟がつくほど
回収の事が 憂鬱になってしまう

「神崎さん、すみません 新人に何度も
    説明したんですが、なかなか要領を得なくて」
先週 この棟に配役された新人の教育係の酒井は
困り果てた様子で平謝りだ

久しぶりに ここに補充された新人だが
少しばかり 〝できが悪い〟のだ

回収した洗濯物を間違えたり
配食時の回収もれも頻繁だ
ここでは 心の中で
(なぜ、こんな事 しなければいけないんだ)
と思ってしまっていると何も覚えられない

ビニール袋やストローを口に入れる
紙パックであっても破って食べてしまう
残飯を袋に入れて隠し持つ者もいる
だから 厳しいルールがあるのだ

回収忘れは 事故にも通じる場合がある
ここでは 考えられない事がおきる

世間で考えられない事をした人間が
集まっているのだから当然だ

何が起きてもおかしくない
必ず 何かが起こるのだ

全ての異常が 〝想定内〟だ

つづく