ここの受刑者は 異常だ
一日中 幻聴、幻覚で喚く者
一日中 不安に襲われ嘆く者
一日中 体調不良で相談する者

それらに対応する職員は大変だ

年配の職員は 扱いも慣れたものだが
若い職員の中には 感情的になる者もいる

手慣れた担当になると相手や症状に応じて
とても巧みな対処をする

この対応が難しく 少しでも間違えると
非常ベルを押さなければならないくらい
大暴れすることもある

神崎はいつも 感心してしまう

しかし 中には理不尽な職員もいて
神崎にはひとり 苦手な人間がいる

相手もそれを理解していて 何かにつけて
神崎をあおってくる

「神崎さん、今日の臨時担当 大林ですね」
酒井も 神崎とは合わないことを知っている
「今日は 温順しくしてなきゃな…」
「前に 衝突した件、未だ覚えてますよ
    今日も絶対 仕掛けてきますよ 彼奴は」

仮釈放のためには、これ以上の衝突は
絶対 避けなければならないが 
最近の神崎は その我慢が限界にきていた

「神崎〜 そこ!許可とって喋ってるのかぁ」
大林が 睨みつけながら近づいてくる

「神崎さん、我慢、我慢ですよ」
と囁き 酒井が大林に向かって
「すいませんでした、許可願います」
「なんだとう!もう勝手に喋ってただろう」

しばらく大林の説教が続いたが
酒井の平謝りのおかげで
何とかこの場はおさまった

この大林というのは
制服を着てなければ チンピ◯ にしか見えない
声が大きいだけで 何を言っているのか
まったくわからない

自分の担当工場の人間には贔屓をするから
大部分の経理受刑者から嫌われている

とても 厄介な奴だ
他の職員からも評判が悪いと聞いた事がある

普段 冷静な神崎が珍しく 大林にだけは
感情が露わとなってしまう
彼は、神崎が一番、赦せないタイプなのだ

嵐の前の静けさ…そんな朝が始まった

つづく